第43話 素晴らしき世界

「どう見る?」

メルに見解を求めるフェノン。

「魔素に治癒魔法の構成がある。括られてるエルフに相当な使い手がいる」

「それってこの靄がある限り?」

「怪我は無限に癒える」

「素晴らしき世界だな」

「ヒールだけならいいけどね?」

ゴウゴウと猿の周りを靄が取り巻く。

「フラグ回収が早い」

「ギョドゥベペェー!!」

「ハードマジックシールド!」

巨大な岩の槍がドウドウと降り注ぐ。

「マテリアルシールドスポイル!」

ぐにゃりと歪んだ空間に、光のヒビが入る。

刺したいのか潰したいのかも分からないサイズの岩の槍がシールドに阻まれ砕ける。

しかし、シールドも軋む。

「キツい!」

「残念だが次が来るぞ」

「フ⚫ック!!」

猿から赤熱した溶岩が流れ出す。

「消火開始ぃ!」

――ブシュー――

リナの液体窒素放射器から、液体窒素が噴射され、溶岩を冷やし固めていく。


「恐ろしく丈夫な建物だな」

「感心してないで、なんか手伝ってよ!」

「ムリだ。私は近接戦闘以外、ほぼ攻撃手段がない」

「脳筋」

「脳筋はリナだろう」

「脳筋じゃないわよ!」

「フェノンに同意」

「メルはぺったんこじゃない!」

「それは今、関係ない!」

「暑いんだか寒いんだか分からんな」

「贅沢言うな!」

「リナはまた太った」

「ふっ!?」

「またか?」

「太ってないし! レベルアップしただけだし! それより、またかって何よ! またかって!」

猿からドコドコと超重量級魔法が飛び出し、メルとリナが次々と最善手のカウンターを浴びせる一瞬の隙も見せられない緊迫した状況が続く。



◆◆◆◆◆◆



「うーむ。このままだとジリ貧だな」

「この靄、ヤバいわね」

「全然減らない」

形のいいあごに手をやるフェノン。

「仕方がない」

「なんかあるの?」

「秘密兵器を使う」

「ある?」

「あるが、イマイチ頼りないのがな」

「それ、秘密兵器?」

「一応な」

「どこにある?」

「あの辺」

部屋の隅っこを指すフェノン。

「できれば秘密のままがいいんだけど」

「危ない」

「とりあえず、持ってくる」

「気をつけて」

「シールドに余力はない」

「パッと行って、パッと帰ってくるよ」

「気をつけて」

「ありがとう」

トントンと足を鳴らすフェノン。

「おい、行くぞ」

言うと同時にフェノンの姿が消える。


「ただいま」

「何? なんで? 俺はすみっこの係のはず」

「そんな係はない」

「出番よ」

フェノンに爆心地に連行され戸惑うマルコ。

「なんのだよ!? 今度こそ囮か!?」

「「………」」

顔を見合わせるリナとメル。

「「知らない」」

首を振る2人。


「作戦はこうだ」

パンパンと手を叩いて注目を集めるフェノン。

そのすぐ隣では、炎が渦巻き、吹雪が吹き荒れ、地獄もかくやという状況だ。

「まず、私が猿の気を引く」

「ええ…」

戸惑うマルコ。

「その間に、マルコが『ス』を溜める」

「え、ええっ!?」

戸惑うマルコ。

「チャージが済んだら、プランCだ」

「「了解」」

「ごめん、意味が分からない!」

「諦めなさい」

「往生際が悪い」

「拒否じゃないよ! 理解が追いついてないんだよ!」

「難しくないぞ。マルコは『ス』を溜めて、あのバカザルに叩き込むだけだ」

「どうやって?」

「これを使え」

愛用の黒刀を渡すフェノン。

「真っ直ぐ構えてぶち当たれば―――刺さる」

「え? いや、ええ!?」

思わず受け取るマルコ。

「大丈夫だ。私を信じろ」

「サポートは任せる」

「マルコとしての初手柄が、炎天猿帝の討伐なんて大手柄よ」

「い、いや、この刀渡したら、フェノンはどうするんだよ!? あの化け物の気を引くって言ってたじゃないか!……素手でか!? さすがに無謀だ!」

『何が起こるか全く分かってないけど、自分より人を心配するあたり、マルコよね』

『人の良さには定評のあるマルコ』

ヒソヒソ話をする2人。


「心配するな。私には取っておきがある」

笑顔のフェノンは小さな切り出しナイフを見せた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る