第42話 一発

―――少し時間は遡る。


「すると、双剣か」

コキコキと首を鳴らしながら、蹴り飛ばした猿の方へ歩くフェノン。

飛び跳ねて立ち上がる猿。

唇を捲りあげ、威嚇音を上げる。

「フォヤアー」

その背中に、ばさりとタカが現れる。


メクジラの双剣士トゥレスの幻視獣、幻獣種・タカ【アルコン】。

発現者のスピードと攻撃の正確性を爆発的に上げる。


「フォヤアー」

二振りの剣を鳴らし、霞む程の速さで斬り掛かる猿。

しかし、

――キィン――

フェノンの黒刀がゆらりと揺れるだけで猿が吹き飛ぶ。

「手が早く、がっつくばかりで駆け引きもない」

再び跳ね起きる猿。

剣を構えようとして、異変に気付く。

「入れたがるばっかりで、細いし、下手だし、すぐ折れる」

二振りの剣は、刃の真ん中でポッキリと斬られていた。

剣を見てギョッとする猿。


――トン――

「??」

「感度は鈍いし、気も利かない。トドメは一発でお終いだ。せめて満足させる間ぐらいはたってればいいのに」

後ろから聞こえた声に振り向こうとする猿の首がスルりとズレる。

「それに何よりブサイクだしな」

血糊すら残らない黒刀を鞘に納める。

「褒める所が1つもなかった」

影すら見えぬ間に、背後に回ったフェノンの一撃だった。


「さて。マルコは無事かな」

ドサリという音に振り返りすらせず、フェノンは軽い足取りでマルコの所へ向かった。



◆◆◆◆◆◆



「しかし、どういうことだろうね?」

「さっぱり分からん」

「メクジラがやられた?」

「それはそうだろうけど…それで幻視獣がどうにかなるの?」

「聞いた事ないぞ?」

「俺も無いね」

「そりゃあマルコが知ってれば、みんな知ってるからね」

「白日猴爵は珍しい。けど所詮、中ランク」

「うーむ??」

リナが出した、シンプルな故に上品で飽きがこないビスケット【マリッジ】をポリポリと食べながら、首を捻る4人。


「まあ、登れば分かるだろう」

ビスケットを食べ終わった、フェノンが伸びをしながら言う。

「そうだね」

「行けば分かる」

「俺も行くんだね…」

「護衛対象を放置したら、護衛依頼にならんからな」

「護衛対象を近付かなくていい危険地帯に放り込むのが、護衛依頼として間違ってるからな?」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ」

「使う所がおかしいんだよ」

「大丈夫。マルコの仇は討つ」

「俺、死んでんじゃん!?」



◆◆◆◆◆◆



階段を登った先に大きな扉がある。

「謁見の間か」

「謁見の間ね」

「謁見の間」

「分かりやすくていいね」

扉の上には、アニメチックにデフォルメされた王冠を被ったエルフと、そのエルフに跪くエルフの絵が描かれている。


「花の匂い?」

「コレはアレだな。アレと同じような匂いだ」

「臭い」

重く閉められた扉から、モワリと花を煮詰めたような濃い匂いが漂っている。

アビノンと初めて会った時の匂いを何十倍にも濃くしたような匂いだった。

「開けずに回れ右、ってどうかな?」

「「「嫌だ」」」

満場一致で否決された。


「リナはサブマシンガン装備。飛び出して来るものに対して面で制圧」

「分かった」

「メルはシールド展開。エルフの魔法は未知数だ。シールドがブレイクされる可能性も考慮してくれ」

「了解」

「マルコは、毛糸クズをピカピカさせて囮だ」

「なんでだよ!?」

「よし、行くぞ!」

「「おおっ!」」

「え?まじで!? 俺、囮?」


大きな木製の扉は、見た目にも手応えにも重たいが、音もなく静かに動く。

これだけで、エルフの木工技術の高さが窺える。


「コレは……」

「すごいわね」

「なんで光らせてるの?」

「要らねえのかよ!」

謁見の間には、黒い靄が漂っていた。

恐るべき密度の呪い。

薄暗闇の中にいるように視界が悪い。


「シールドが無かったら危ないな」

「でも、シールドも喰われてる。間に合うけど」

「エグいわね」

「なんか……来る?」

ドシンドシンと重い足音が聞こえる。


「ギョドゥベペェー!!」

「散開!」

言うなりフェノンはマルコを抱き寄せ、その場を飛び退く。

他の2人も反応は早い。


――ドシーン――

巨大な着地音。その風で呪いの靄に隙間が出来る。

「コイツは!?」

人の倍はあろうかという巨躯。

真っ赤な体毛。

上下に大きく飛び出した幾本もの太長い牙。

「「「炎天猿帝えんてんえんてい!!」」」

危険度:高即支援要請の化け物。


――ガガガガガガガガッ――

目視と同時にリナのマシンガンが火を噴く。

「リナ!」

「分かった! ランバ! バズーカ!」

「ドームシールド!」

「ファイヤー!!」

―――ドゥフゥン!――

阿吽の呼吸。

サブマシンガンを放り投げ、バズーカに変更。

メルが猿を包むような物理シールドを展開し、一部に空けられた穴からバズーカ砲をぶち込む。

閉じ込められた爆炎が猿を焼く。


メルがシールドを解除すると同時に、フェノンが飛び込む。

「シッ!」

不可避の一振。


猿の太い首が半ばまで切り裂かれる。


「どうだ?」

しかし、血が吹き出さない。


「……プレッシャーが」

「消えない」

黒い靄が渦巻き、直立したままの猿に吸い込まれると、焼け爛れた体と半分ちぎれた首が元に戻る。

「ギョドゥベペェー!!」


第2ラウンドが始まる。


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