第41話 揺れると舐める

「ボエウオー」

盾を構えた猿が、雄叫びを上げる。

「うらぁ」

パスンパスン。

容赦なく撃ち込むリナ。

しかし、弾丸が炸裂しても盾には傷一つつかない。

「オリハルコンかなんかで出来てんの、それ?」

「ボエウオー」

再び雄叫びを上げる猿。

すると、その背中にボワンとサイが現れる。天を衝く程に大きな角を持つ巨大なサイ。

「幻視獣!?」

――ドゴンっ――

爆発的な加速力で、一気に間合いを詰める猿。

「っぶな!」

間一髪。

「ってウソ!?」

爆速で通り過ぎたはずの猿が急旋回すると、再び土煙を上げて突っ込んで来る。


『メクジラ』の壁役ドスの持つ幻視獣、幻獣種・サイ【リノセロンテ】。

パワーと突進力を爆発的に上げる。


「チッ」

飛び退きながら自分の足元に弾を撃つ。

――ドパン――

炸裂の衝撃も利用して緊急避難する。

「っ痛」

破片を浴びて小さな傷ができる。

そのリナの僅か横を、デカい塊が通り過ぎる。

「ヴェっ!」

巻き起こる爆風に巻き込まれ、変な悲鳴とともに、吹き飛ぶ。

「こなくそ!」

何とか足から着地する。

ポイっとピストルを放り投げる。

「ランバ! バズーカァ!」

ガシャコンと肩に現れたバズーカを構える。

「ぶっ飛べ、クソザルぅ!!」

ドゴーンと爆煙が上がり、三度突進を掛けるシールドに巨大な砲弾が直撃し、爆発する。

「ザマァ!……え?マジ?」

爆煙をかき分け、無傷のトゲトゲが迫る。

「ぎゃあああ」

必死に飛び退き、ゴロゴロ転がる。


起き上がりこぼしのように勢いのまま起き上がる。

「ああ、そう! そうですか! そういうつもりなら、こっちもやらせてもらうわよ! 素材とか城とか知るかぁあ!」

擦り傷だらけ、煤だらけになりながらブチギレるリナ。

盾の陰からチラッと顔を出してニヤニヤする猿。


「ランバ!」

リナが叫ぶと、左肩の辺りに、薄っぺらい円柱みたいな灰色の物が現れる。

赤や青のランプがペカペカと点滅しながら、クルクルと不規則に回転している。

リナの幻視獣、機械種・銃火器【ランバ】。

通常、機械種はアルコのように初めから1つの武器の形を取っているのだが、ランバは違う。

リナの要請に応じて、姿を変える。

通常形態のピストル、破壊力重視のバズーカなど。

そして、


「デカくて硬けりゃいいと思うなよ、クソザルがぁ! ランバ! 殺戮兵器ジェノサイドモード!!」

ピコピコという機械音、ピカピカと明滅するランプ。

ガションガションガシャンガシャンとランバが変形しながらリナにくっついていく。

ガッションと変形が終わる。


四門一対の巨大なガトリング砲が両手に。

両肩に載った二門のバズーカ。

背中にあるのは18連のミサイルポッド。

背中から生えた2本の補助腕にポイントされているのは、火炎放射器と液体窒素放射器。

「破片と血糊になりくされ! フルバーストぉ!」

両手のガトリング砲がギュオーーンと唸りを上げて夥しい弾丸を吐き出す。

ガガガガガという爆音に併せて、鎧越しでもプルプルと小刻みに揺れる揺れる。

弾幕が盾を釘付けにする。

――ドドゴーン――

両肩のバズーカが火を噴き、たゆゆんと大きく揺れる。

――シュボボボボボン――

衝撃に耐えきれず、遂にひっくり返った猿にミサイルが殺到する。


爆煙の晴れた先には、ぐにゃぐにゃに変形した盾だけが転がっていた。


「大きさと硬さはいいけどね、すぐにイッちゃうようじゃ満足出来ないのよ」

ハッと鼻で笑うと、パッツンパッツンの胸を張った。



◆◆◆◆◆◆



「ホェワアー」

「マジックシールド」

飛んでくる矢が、ぐにゃりと潰れて消える。

「ムダ」

メルの足元には白いネコ。

メルの幻視獣、悪魔種・ネコマタ【シロ】。


「ホェワアー」

猿は走り、距離を詰めながら何度も矢を射掛ける。

「ムダ」

しかし、全ての矢はメルのシールドの前に潰れる。


猿は矢を射掛ける向きを、メルから足元に変える。

「ホェワアー」

ドドン!床を穿った矢から爆煙が上がり、メルの視界を奪う。

「煙い」

シュッ!

今までと違う音。

咄嗟に身をひねるメル。

その体をかすめたのは、本物の矢。

「危ない」

確かに。


「ホェワアー」

猿は気炎を上げると、次々に矢を番え、バスバス撃ちまくる。

魔法の矢と、本物の矢を混じえてバスバスと。

アルコは魔法だけでなく、普通の矢も射ることができる。なんせ弓だから。

矢もポコポコ湧いてくる。

基本的に弾切れがないのが、機械種の強みだ。


「猿のくせに賢い」

迫り来る矢の弾幕に逃げ場はない。

しかし、メルは動じない。

「クロ、マテリアルシールド」

静かな声に応じて、足元にクロネコが現れ、同時に輝く壁が現れる。

悪魔種・ネコマタ【クロ】

メルは幻視獣2体発現の超激レア体質〖ツインズ〗。

魔素を操る【シロ】と、物質を操る【クロ】。

2匹のネコマタがメルの幻視獣。


魔法矢も物理矢も2種類の壁の前にぐにゃぐにゃ潰れて落ちる。


「ファイヤーフォール」

弾幕の間隙をついて、魔法を放つメル。

猿の頭上から炎が滝となって流れ落ちる。

「終わった?」

シッ!

身をひねるその直前まであった場所を風切り音と共に矢が射抜く。

「危ない」

確かに。


「なぜ生きてる? グランドシザース」

地面から生えた鋭い2枚の刃が猿がいるはずの場所で交差する。

シッ!

しかし、矢は止まらない。


「これがエルフの魔力か」

クアトロを凹ませた、エルフの強力な魔法防御。

「我慢比べ?」

通らないなら、通るまでぶち込む。

メルの目が鋭くなった。


矢の暴風雨と、魔法の嵐。

一撃必殺の暴力の応酬。

ハイレベルな一進一退の攻防。


――しかし。

「飽きた」

メルは飽きっぽかった。

「ウインドキャリアー」

「ホェワアー!?」

強風が作るレールに乗って猿がメルに引き寄せられる。

物理的に強風に押されるだけなので、魔力防御は関係ない。

「捕まえた」

メルが嗜虐的な笑みを浮かべ、猿の体に手を当てる。

「マジックブレイク」

――パシャン――

シロの鳴き声と共に不可視の何かが砕け散る。

メルが最大攻撃力を誇る魔法、マジックブレイク。

接触型のこの魔法は、あらゆる魔力を魔素へと分解し、無効化する。


「マテリアルブレイク」

――グシャリ――

クロの鳴き声と共に猿がバシャリと弾け飛び、ドチャリと黒光りする呪臓が残る。

マジックブレイクと対になる、マテリアルブレイク。同じく接触型で、ほぼ全ての物質を分解する事ができる。


飛び散った返り血は全て光の壁に遮られる。


「テクはあるけど。雑魚すぎる。触っただけで即爆発とかチョロ過ぎて冷める」

赤い舌がチロりと唇を舐めた。


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