第39話 真犯人

「ふざけるな!!」

「――っ!!」

響く怒声。

スレプフリープスが効いたことではしゃいでいたマルコが固まる。

顔を真っ赤にしたクアトロが、マルコに詰め寄る。

「ふざけるな! こんなこと許されるか! 許されてたまるかぁ!」

マルコの襟首をつかみガクガクと揺らす。

「落ち着きなよ」

「離す」

クアトロの腕を押さえるリナとメル。

「気持ちは分かるがな」

腕を組んでウンウンと頷くフェノン。


「ゲホゲホっ」

なんとか開放されたマルコが咳込む。

「アンタなんなの? ちょっとマルコに絡みすぎじゃない?」

「Jランクを気にする必要はない立場」

興奮醒めぬ表情でマルコを睨みつけるクアトロ。

「コイツは! コイツは学生の頃からそうだった! 何も出来ないくせに…私に劣等感を植え付ける!」

「お、俺が何をしたと? 君は無事に卒業したエリートで、俺は落伍者だ」

「何を、だと……? 何をだと、貴様!? シンコ先輩を覚えているか?」

「シンコ先輩?」

えー?となるマルコ。

「まさか…まさか貴様忘れているのか!?」

ブチ切れるクアトロ。

「シンコ先輩というと、1学年上のか? バレー部にいた?」

フェノンは知っていた。

「そうだ!」


「?? シンコ先輩? バレー部?」

「ほら、背の高い。メガネを掛けて、緑色の髪を伸ばして後ろで括ってた」

フェノンが補足する。

「背? メガネ? 緑色?」

全くピンと来ないマルコ。

「ふざけんな!てめえ舐めてんのか!?」

キャラが壊れるクアトロ。


「まあ、マルコは他学年と交流の多い方じゃなかったからな。それで、シンコ先輩がなんだ? ああ、そう言えばクアトロもバレー部だったな」

「そうだ! シンコ先輩は、コイツのせいで……コイツのせいで、人生を狂わされたんだ!」

「ええっ? 関わった記憶がないよ?」

「第6親衛隊の副隊長だったな、彼女は」

「「第6親衛隊?」」

「そうだ。マルコのファンクラブを親衛隊と呼んでいたんだ。かなり後の方に出来た部隊だ。第6は、進級のために無理をして弱りきってるマルコにハマった部隊だな。マッチョ好きから宗旨替えしたタイプが多かった」

フェノンはなんでも知っている。

「貴様に分かるか!? 快活で生命力に溢れていた先輩が、ある日突然、部活をやめて、訳の分からんストーカーを始めたんだ!」

「「あぁ…」」


「いや、ストーカーって俺被」

「黙れ! 貴様に分かるか!? 尊敬していた先輩から突然、目の下にクマが出来た病人みたいな同級生の写真が送られてきて、『このお方と友達じゃないの?』と聞かれ、『そこまで仲良くは…』と答えたら『使えねえ。睡魔使いって共通点以外生きる価値ねえな』と言われたこの気持ちが!」

「その写真はないの?」

ねぇねぇとワクワクした顔でクアトロをつつくリナ。

「ん? これだ」

スマホを開いて見せるクアトロ。

「ちょっと貸す」

いそいそと取り上げるメル。

2人でスマホを覗く2人。

そして驚く。

『すんごい量!』

『私ほどでは無いが……できる!』

『コレは……ヤバいヤツね』

『これ!? 見たことない!』

『コレは有名なヤツね』

『着替え! 体操服はレアい』

『これなんかかなり実用性高いわよ!?』

『ポイントの抑え方が、的確!』

『動画だ! 動画もある! 動画! ……盗撮? 男子更衣室っぽいけど、アングルが堂々としてる?』

『Ipponだからシェアドロできる』

『シェアドロ、シェアドロ』

タムタムと人のスマホを勝手に操作する2人。

「………」

2人に色々言いたいけど、クアトロが睨んでるので言い出せないマルコ。


「逞しい人が好きだと言っていた先輩に、『筋肉ダルマは……ダメね』と言われた俺の気持ちが分かるか!?」

「いや、だから、それを俺のせ」

「『毎日、この方の映像を送って来い。出来ないならお前に用は無い』と言われ、毎日、毎日写真や動画を送り続けることになった俺の気持ちが分かるか!?」

「犯人はお前かあ!」

4年越しの真犯人判明だった。


「挙句に、だ! フェアリースクールを卒業し、世界にはばたく実力があった先輩が、お前のせいでフェアリースクールを辞めたんだ! 貴様のせいで! 」

「そこまで?」

「貴様のせいで、人生を狂わされたんだ!」

「マルコを追いかけて辞めた口?」

「いや、あの人は専門学校に行くと辞めたはずだ。フェアリースクールは特性上、卒業後に進学は出来ないからな、すぐ働かないと。だから卒業せずに辞めた。少し騒ぎにはなったな確かに」

「へえ」

「そりゃあ人生狂ったっちゃあ狂ったわね」

「狂ったと言っても、今はペルサッチャーのデザイナーだぞ?」

「ペルサッチャー!!」

メルが大きな声で反応するぐらいに有名な服飾のハイエンドブランド、ペルサッチャー。

「ああ。ペルサッチャーの新規ブランド、モアルコの立ち上げ最年少メンバーで、チーフデザイナーだ。雑誌のインタビュー記事を読んだな」

「モアルコって?」

「四肢の欠損や車椅子など、ハンディキャップを持つ人たちが楽しめる、機能性とデザイン性を両立させたブランドだ。非常に注目度が高い」

「凄いじゃない」

「立派」

「うむ。見事に世界に羽ばたいておられるな」

3人が歴史に名を残すであろう偉人の確認をしたところで、大音声でマルコを責め続けるクアトロに目をやる。

「……ら、貴様のように運だけでフニャフニャ生きてるヤツが許されるわけにはいかんのだ! 死んで詫びろ!」

「ムチャ言うなよ! 俺だって努力してるんだよ!」

「そうだぞ、クアトロ」

人として非常にまずい表情を浮かべてマルコに詰め寄るクアトロを止めるフェノン。


「クアトロは分かっていない。マルコという生き方がどれほどの事なのか」

なんだか嬉しそうなフェノン。

「フォローしろよ! フォローするんだからな!?」

マルコが釘を刺す。


「試験のために必死に練習してやっと様になった剣術一乃型基本の基本を、試験当日、テスト用のカカシに避けられたマルコの気持ちが分かるか? 左右にユラユラ揺れてるだけのカカシに避けられたんだぞ!?」

糠に。


「4歳で幻視獣が発現したために、神童ともてはやされ、期待に応えるべく必死に頑張った結果、フェアリースクールで空前絶後のポンコツ幻視獣だと判明したマルコの気持ちが分かるか?」

豆腐に。


「しかも、14年越しにやっと進化したと思ったら、まさかの退化だったなんてマルコの気持ちが分かるか!? 14年だぞ、14年! フェアリースクールを2回卒業してもお釣りが出るんだぞ!」

暖簾に。


その後も淀むことなく語られる、マルコの苦労と失敗の歴史。

「大丈夫よ、マルコ! 私は見捨てないから」

「ガチのマジでハードモード」

「その、なんか、すまんかったな…」

「いや、いいんだ……分かってくれれば、さ……あれ?おかしいな?雨かな…」

「うむ。みんなの理解が得られたところで、城に乗り込むぞ!」

言いたいことを言い終えてすっきりした表情のフェノンが、ゴーゴーと手を上げた。


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