第37話 カレー
「やっぱり、外で食べるカレーはいいわね!」
カチャカチャとスプーンを動かしながらご満悦のリナが言う。
「リナのカレーは美味しいよね」
マルコもモグモグしている。
「む。私もカレーには自信があるが?」
フェノンが対抗する。
「フェノンのカレーは美味しいけど、本格的よね」
「フェノンのカレーはグリーンカレーとか、ココナッツカレーとかだから、カレーとはちょっと違う気がするんだよな、やっぱり。美味しいし、好きだけど」
「むぅ…。確かにリナのカレーとは別物だが……」
「ふふん」
勝ち誇るリナ。
「リナの作るカレーなら、私もできる」
ブチブチと文句を言いながらガツガツとカレーを食べるメル。
「アンタのはレトルトでしょ?」
「レトルトでもカレーはカレー」
スプーンを振り回すメル。
「カレーはカレー! ボボボンカレーに謝れ!」
「だからなんで俺を殴るんだよ!?」
グーである。
「あ、こら、なんで俺のを取るんだよ!? 普通におかわりしろよ!」
「さて、そろそろ行くか」
賑やかな食事を終え、使い終わった食器を片付けるとフェノンが言う。
「どこに?」
マルコが聞く。
「城だ」
「城?」
「ここにいてもすることがないからな」
今更だが、猿はおろかネズミの1匹もいない。
「エルフの救助とか?」
聞いてみる。
「マルコしかできないだろ?」
「そうね」
「まだ呪いが解けてない」
「ということはまだ片付いてない」
ハエトリネズミを見つけた野ウサギのような笑みを浮かべるフェノン。
「つまり獲物がいるということだ」
ウサギを見つけた猛禽類のように笑みが一段と深くなる。
「あ、危ないよ?」
「逆だ」
「逆?」
「露払いが済んでるんだよ」
猛禽類を見つけた翼竜のように更に笑みが深まるフェノン。
『あ、これはもうダメなヤツだ』
マルコは、大人しく従うことを決めた。
◆◆◆◆◆◆
遠くから見ても不思議な建物だったクヌギの城は、近くで見ても不思議な建物だった。
大きい。とても大きい。
木材でできているというか、巨大な樹そのものというか……それなのに、壁だったり、窓だったり、石垣だったりがある。
当然ながら中は人というかエルフが入って活動できるようになっている。
枝が伸びたり、ねじれたりしているが、それも城の一部のようで、人間とは違う計算によって、建設されていることがよく分かる。
「エルフの建造物なんて初めて見たよ」
「私も」
「珍しい」
「うむ。教本などにも載らないしな」
「見慣れないから、分かりにくいね」
「ふむ。これは衛兵の詰所のようだな」
フェノンが建物を指して言う。
「え? よく分かるな」
「あれ」
「あれ?」
メルの指に従って目をやると、建物の入口の上に、アニメチックにデフォルメされたエルフが剣と盾を持って椅子に座っている姿が大きく描かれている。
「………詰所だね」
「ん? あれは?」
詰所をスルーして、正門に向かった所でフェノンが足を止める。
「クアトロ?」
短い金髪。黒いローブ。
「なんでこんな所に?」
「謎」
テトテトと近付くと、そこにいたのはやはりクアトロだった。
「クアトロ」
フェノンが呼ぶ。
「ん? ああ、貴方達か……」
一目見て分かるほど、クアトロは憔悴していた。
「ど、どうしたの?」
「なぜこんな所に?」
「……増援が来ないように見張りさ」
クアトロは悔しそうに歯を食いしばると、絞り出すように答えた。
「何があった?」
ギリッと歯を鳴らし、フェノンを睨むクアトロ。
「……魔法が効かないのだ」
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