第34話 震撼
「し、死ぬかと思った」
肩で息をするマルコ。
汗ばんだ額に、前髪が幾本か張り付いている。
上気し赤くなっ た頬、ゼェゼェと掠れる吐息。
そんなマルコをメルが撮影している。
いつも通り、なのだが、今回は巻き込まれた証拠が残るようにだ。
突発的な事故に映像があることが不自然だろうがなんだろうが、証拠があればゴリ押しがしやすいという理由である。
そもそも無理を通すつもりなので、道理は彼方にポイである。
「いやあ……不眠猴を釣ってと思っていたんだが……」
青を基調にした鎧に身を包んだウノが冷や汗をかく。所々に散りばめられた緑色の宝石が高級感満載だ。
「まさかの白夜猿に追い掛け回されるとはな」
背中に巨大な
「【危険度:無し】だぞ?」
急所だけを守る赤い部分鎧は、スタイリッシュでトゥレスの伊達男っぷりを更に上げる。腰には細身の2本の剣を佩いている。
「普通人を見ると逃げるんですけどね…」
こちらも動きやすさを優先させたローブスタイルのクアトロ。黒い生地の光沢と重厚感が素晴らしい。
武装を整えればさすがの威容を誇るメクジラ。
しかしマルコの偉業におののいている。
「マルコだからな」
「野生動物は目利きがいいからね」
「人間界のハエトリネズミ」
通常運転のネムラゴ。
こちらも武装を整えている……が基本的に装備が軽い。
フェノンとリナはさすがに頭と心臓は守っているが、それ以外は動きやすい格好という感じだし、メルに至っては、ほとんど普段着みたいな格好だ。これから山登りに行きますと言われても違和感がないほどで、小さな鞄を肩掛けにしている。
言いたいことはあるが、息が切れてまともに喋れないマルコ。
マルコも帽子と丈夫な服という出で立ちだ。
こちらは鎧を着ると動けなくなるからだ。
入口から遠くに樹と塔を足して城で割ったような巨大な建物が見える。
ハイエルフが住む王城だ。
普通のエルフが住むのは、乾いてない紙粘土と言うような不思議な質感で、角が丸くなったサイコロみたいな家だ。
自然が多く残る中に、白やピンク、青などパステルカラー調の家がぽいぽい並ぶ景色は、なんともファンシーな景観を成している。
「しかし、想像以上に深刻そうだな」
マジメな顔になってウノが街を見渡す。
おびただしい数の猿がいなければ。
人の背丈の半分ほどの猿が、平べったい屋根の上で大騒ぎしている。
どこからちょろまかしてきたのか、高そうな酒瓶をラッパ飲みしたり、好物の木の実や果物をぐちゃぐちゃと食べ散らかしている。
中には……というか半分ぐらい……というか7割ぐらいは、春の麗らかな陽射しの下で盛大に盛り、嬌声を上げている。
「「「「「おお…なんか……」」」」」
地獄絵図に言葉に困る
「うるさい」
「ヒドイもんね」
「正にサルだな」
ドライな
「わ、脇腹……」
未だに死闘の傷が癒えない
「とりあえず、ささっと片付けちまおう。コイツらを倒せば呪いは勝手に解ける」
気を取り直したウノが言う。
「そうだな」
フェノンが用意をしようとする。
「いや、俺1人で充分だ」
フェノンを押し留める、ウノ。
「行くぞ、アルコ」
シュビッと左手を横に突き出す。
すると、中空に背の丈程もある青く輝く長弓が現れ、バシッとその手に納まる。
「これが、あの、アルコか」
「カッコイイわね」
「絵になる」
パチパチと拍手と賛辞を送る3人。
黄色い声援に気を良くしたウノが、ヒュンヒュンと弓を回して、ビシッと構える。
「あれ? 矢は?」
間抜けな声を出すマルコ。
「静かに」
「今、いい所なのよ」
「これだからぼっちは」
「ぼっちは関係ないだろ!」
「アルコは
クアトロが説明してくれる。
Aランクパーティ『メクジラ』、そのリーダーを務めるウノの幻視獣【アルコ】。
機械種、ボウに分類されるアルコの特徴は、マジックウエポン。
機械種でありながら、魔法を放つことができる超絶レアな幻視獣である。
ウノはニヤリとニヒルな笑みを浮かべると、矢を番えることなく、鮮やかな青い弓を引く。
引き絞られた弓に、幾条もの青い光が浮かぶ。
「灰すら残ると思うなよ? 消え失せろ!」
シッという小さな呼気とともに、解き放たれた弓弦から、無数の青い光が迸る。
余りの光量に、視界が青く染まる。
「うわぁー、目がぁ目がぁ」
目を押さえてオロオロするマルコ。
光が収まったその先には、異物の取り除かれたファンシーな景色があった。
宣言通り、灰すら残さず消え失せている。
矢を番える必要もなく、しかも一度に大量の極高温の青い火矢を放つことができる。
それが、アルコの能力である。
生き残った不眠猴たちが、オーソドックスだったり、アクロバティックだったり、マニアックだったりする体位で固まっている。
中には、気にせず嬌声を上げ続けている猛者もいたが。
「もう二、三発でこの辺は片付くな」
無慈悲な宣告と共に、空が青く染まる。
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