第33話 前提

「「「「おお……」」」」

森を抜けた先にあったのは、巨大な森だった。

大きな樹の間を小さな木が隙間を埋めるように生えているその森は、これまでの森と違って人の手が入っているという気配を強く感じる。

エルフの国・クヌギを取り囲み、外敵の侵入を阻む隔壁である。


自然と技術が見事に融和した荘厳な雰囲気に4人は息を飲む。


その後ろでは、Aランクパーティ『メクジラ』メンバー4人の内3人が、晴れ晴れとした顔をしていた。

勝利者の姿だった。

「誰だ無理なんて言ったヤツは?」

渋い声でリーダーのウノが言う。

30歳手前で落ち着いた雰囲気がある。

「カンタンだったじゃないか?」

ウノよりも少し若い、20代前半のドスも続く。

「余裕よ、ヨユー」

ドスと同世代のトゥレスが締める。

「……良かったですね」

ご機嫌の先輩に、微妙な顔で応じるクアトロ。


馬車の中で、ネムラゴ3人のメッセアドレスを手に入れてご機嫌だった。

職責をよく果たし、評価の高い『メクジラ』だが、プライベートも誠実かと言えば、そうでも無い。

無いというか、はっきりと悪い。

特に女性がらみでは、浮名の絶えないパーティである。


その実力を遺憾無く発揮し、3人の連絡先をゲットして、ニヤニヤしていた。

巷で有名な美人パーティの連絡先である。

有名と言ったって所詮は17、18の小娘。

百戦錬磨の3人に掛かれば簡単なものだ。

しかしその成果は、実利としても、名声としてもウハウハだった。


クヌギなんていう片田舎で、明らかに面倒な仕事、報酬もボランティアみたいなもんだし、トドメに、エルフは美形が多いくせに条約のアレコレで手が出しにくいという貧乏くじで、やる気の欠片も湧かなかった3人は、ネムラゴと合流と聞いた時から、それだけをモチベーションにここまで来たのだ。


目標を達成した3人は、実力と実績その両方から間違いなく手に入ると確信する楽しい楽しい未来にはしゃいでいた。



◆◆◆◆◆◆



「さて、どうしたものか?」

一旦森に戻って腕を組む一同。

『こんにちはー』と入っていければいいのだが、それだと介入の言い訳が出来ない。

あくまで『巻き込まれた』という体が必要なのだ。


「1番簡単なのは、猿にふっかけられることだが……」

リーダーのウノが確認する。

「そうだな」

フェノンが頷く。

「「「「「「「………」」」」」」」

全員の目が1つに集まる。


「モンスターと言っても野生動物だからな、無理なケンカは売らない」

もう一度、ウノが確認する。

「そうだな」

やはり、フェノンが首肯する。

「「「「「「「………」」」」」」」

全員の目が1つに集まる。


「ヤツらとしても、確実に勝てる相手なら手を出しやすいだろうな」

三度、ウノが確認する。

「それは、そうだ」

三度、フェノンが首肯する。

「「「「「「「………」」」」」」」

全員の目が1つに「行くよ! 行けばいいんだろ! いちいち俺を見るなよ! 俺が囮になるよ!」

「尊い犠牲」

「大丈夫、顔さえ無事なら面倒は私たちが見てあげるから。だから何としても顔だけは守ってね」

「死ななければ勝ちだ」

「いや、そこは私たちが守るから安心して、だろ! なんで怪我は前提なんだよ!」

酷い作戦にマルコが抗議する。


「守られる前提もいかがなものかと思うが…」

ドスの冷静なコメントをマルコは全力でスルーする。

「俺がみんなを守る!ぐらい言えなきゃなぁ」

トゥレスが端正な顔にキザな仕草を添える。

「やはり実力者は言うことが違うな」

「こういうのが大切よね」

「大人の魅力」

3人娘の感想に気を良くするトゥレス。

「ほら、マルコもやってみろよ」

気が良くなったので、マルコを促す。

「いや、僕は別に…」

「いいからやってみろって。大切なんだよ、こういうのが。言われっぱなしで情けないだろ?」


ふぅ…とため息を吐くと、マルコがキリッと顔を作る。

「俺がみんなを守るよ」

「おぉ……」

その圧倒的な画力、迫力、色気に、メクジラの4人が男ながら息を飲む。


「マルコがみんなを守る、か」

「その状況がもう絶望よね」

「そこまで落ちぶれたくない」

3人娘が、たはーっと盛大なため息をつく。

「こうなるんですよ! コイツらはこういうヤツらなんですよ!」


「敵の目の前で騒ぐな、非常識な」

「これだからJランクは」

「ぼっち」

「今はぼっちは関係ないだろ! 後、JじゃなくてEだし!」


かくして逼迫した緊張感を伴って、【マルコを囮にムリヤリ乗り込んで、クヌギから報酬をむしり取る作戦】が開始された。


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