第32話 四葉のクローバー
「手強かった」
「ハードだったな」
「移動だけでこんなに苦労するとはね」
「……すみません」
ここから見える森を一つ抜けた先にクヌギの国がある。
移動の馬車に酔ったマルコのせいで予定より到着が遅れたのだ。
少し進んでは休み、少し進んでは休み。
おかげで馭者に追加料金を払うハメになった。
「前より更に乗り物に弱くなってない?」
「以前はもう少しマシだった」
「久しぶりだったのと、緊張のせいかな……」
「リナは楽しんでいたようだが?」
「う、た楽しんでないわよ?」
「「………」」
メルとフェノンの無言の圧力。
「……楽しかったです。かなり」
リナは馬車酔いでグロッキーになったマルコに膝枕しながら、頭を撫でたり手を握ったりとご満悦だった。
「独り占め」
「だって1番クッション性がいいのが私だから、ほら」
「駄肉とハサミは使いよう」
「うっさい!」
ギャーギャーと言い合う2人。
「それにしてもこの依頼はいいんだろうか…」
「確かに」
「『四葉のクローバーを摘んでくる』ってこれは依頼として成立するのか?」
「しかも、やたら報酬がいいんだけど?」
「おかしい」
ギルドが用意した
しょぼい。
依頼主はヒラケタ支部の女性職員たちで、レアな薬草並の買取価格が付けられている。
「とりあえず、四葉のクローバーを探そう」
「うん」
「『メクジラ』が着くまでまだ時間があるしな」
「暇」
クエストの達成条件が『マルコが四葉のクローバーを摘む』なので、ネムラゴの3人にやれることはない。
別に手伝ってもいいのだが、なんか不思議な力でバレそうな気がするので、今回はズルは無しにしようと決めている。
この辺りの危機管理能力の高さは、さすがのCランク。
ちなみに押し花にするのは、挟むだけで押し花が作れる専用のケースが与えられているので、実質、四葉のクローバーを見つけさえすれば依頼は完了である。
「ま、せっかくだからのんびり待とう」
そう言うと、レジャーシートを広げるフェノン。
「そうね。ピクニック日和だわ」
「この辺りと、この辺りにクローバーがある」
スマホアプリのマジックマップ(極詳細:有料版)を使ってマルコに指示を出すメル。
「ありがとう。行ってくるよ」
◆◆◆◆◆◆
草原でキャンプすること2日目。
マルコがクエスト達成の3倍以上の四葉のクローバーを採集し、専用ケースにしまっているとガラガラと馬車がやって来た。
「あれ」
「そうだろうな」
「さすがAランク」
「派手だ」
キラキラと陽射しを弾いて光る馬車は、銀色に輝く6頭立てだった。
「ミスリル?」
「だろうな」
「すげー」
「『ピョコン』何個買えるのかな?」
リナが1口サイズのチョコアイスを食べながら、的外れなことを言う。
「ペガサス?」
「ぽいな」
「すげー」
「ペガサスって何食べるの?」
どうでもいい情報だが、リナ愛用のバックパックはサイドポケットに冷凍保存可能なオプションを付けている。反対側は冷蔵保存可能だ。
ちなみに、本体並にめちゃくちゃ高い。
ボケーっと見ている間にド派手な馬車が近付いて止まる。
遠目で見た通り、白い馬には折りたたまれた翼が生えている。
「久しぶりだな」
馬車の窓が開くと、そこから金髪を短く刈り上げた精悍な顔つきの男が顔を出した。
「クアトロ、久しいな。卒業以来だ」
フェノンが手を上げて応じる。
「元気そうだね……って俺のことなんて覚えてないか」
マルコが普段より8割ほど元気なく挨拶する。
ずーーんと影を背負っている。
「……貴方を忘れることは難しいと思うが…?」
太陽の下でキラキラと輝く自慢のミスリル製の馬車よりも、美しく輝くマルコのプラチナの髪を見ながら戸惑い気味に答える。
クアトロは、フェアリースクール時代の同級生で、在学中に幻視獣が2度のクラスチェンジを果たし、優秀な成績で卒業した睡魔使いである。
「クアトロ、乗ってもらえよ」
馬車の中から声がする。
「はい。どうだ? 良ければ乗って行くか? 本命は森の先だろ?」
「ありがたいが、先にキミドリを飛ばしてもいいか?」
「ああ、勿論だ」
キミドリというのは、黄緑色のゴツイ鳥で、コイツに荷物を括りつけて飛ばすと、1番近くにある冒険者ギルドに荷物を届けてくれる。
採集系のクエストの場合、とりあえず目標を届けさえすれば
キミドリのレンタル料はかかるし、報酬を受け取るには報告が必要になるが、紛失によって生じるリスクに比べれば安いものだ。
特に今回の場合、これから戦争しに行くので余計とだ。
専用の召喚ツールから呼び出したキミドリがバサバサと飛び立つのを見送ると、4人は銀ピカに輝く超高級馬車に案内された。
その完璧な足回りは、森の中すら絨毯の上を歩くような快適さで進んだ。
おかげでマルコの乗り物酔いは比較的軽くで済んだ。
酔ったは酔ったが。
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