第31話 第三者

「いやー、無理でしょう」

「そうだな」

「ですよね」

話は終わった。


ネムが机の上で飛び跳ねて暴れる。

「大人しくしとけってネム」

『な?』とマルコが声を掛ける。

「羊モドキがどうにかできる話じゃないんだ」

「真実は残酷なものなのですよ?」


ネムは諦めない。

机の上に仰向けになってバタバタとダダをこねる。

「そうは言ったってネムラゴはクビになったんだから、ワガママ言うなよ」

「そうだぞ、ぬいぐるみ未満のポンコツ魔法のせいなんだからな?」

「……方法はありますが?」

泣きそうになるネムを見兼ねたクララがつぶやく。

クララの言葉にガバっと起き上がり、クララの胸ぐらにつかみかか……ろうとして、フェノンにつかまり、マルコの肩の上に戻される。

「恥ずかしいマネをするな、モコモコ崩れ」


「方法というのは?」

「はい。先ずマルコさんが冒険者登録をします」

「Jランクなんて無いぞ?」

「言うにしてもFランクでいいだろ。 なんでそこまで遡るんだよ」

「規定通りEランクになります」

「「はい」」

冷静なクララに居住まいを糺す2人。

「でも、Eランクでは今回のクエストは受けられないだろう?」

「受けられません」

クララは頷く。

「受けられないのであれば、受けられるクエストを作ればいいのです」

「「……」」

すげーことを言い出した、という顔をする2人。

「ただし、受けた所で、先日脱退したばかりのマルコさんがネムラゴさんと合同パーティは組めません」

「では?」

「しかし、マルコさんが護衛依頼を出せば別です」

「護衛依頼……」

「……なるほどな」

頷く2人。

クララが机に紙を広げてサラサラと筆を走らせ、上の方に『クヌギ』と書く。

走り書きなのに、リナの5万倍ぐらい綺麗な字だった。

「クヌギの近くを目的地にした、ソロのFランク冒険者でも受けられるしょぼいクエストをマルコさんが受けます」

『クヌギ』の少し下に『しょぼい』と書き『=』で繋いで『マルコ』とする。

「地味に傷つく数式だなぁ」

マルコが遠い目をする。

「マルコさんから、指名依頼で、ネムラゴさんに護衛依頼を出します」

『マルコ』から『→』を引っ張って『ネムラゴ』と書く。『→』の下に『おんぶにだっこで、しかもヒモ・・』と書かれる。

「なんかこう、事実だけど、第三者に冷静に指摘されると……」

ズーンと沈むマルコ。


「これであれば、成立はします」

ネムが、ぴょこぴょこ飛び跳ねる。

「ただし問題は…」

しかし、クララの表情は暗い。

「指名依頼の報酬だな」

「……通常の1.5倍でしたっけ?」

「そうです」

「クヌギからぶんどれれば回収できるが……」

「Aランクパーティが動きますからね」

「早い者勝ちなら分が悪いな」

「「「………」」」


「たまたまその辺をウロウロしてた、は?」

マルコが尋ねる。

「プライベートで巻き込まれた場合は、我々の関与する範囲ではありませんので、構いませんが…」

「結果いかんにしろ、クヌギからぶんどるのが難しくなるな」

「それと、冒険者保険の適用が出来ませんので、事故があった際の支払いなどが完全に自己負担になります」

「……リスクが高いね」

「「「うーん」」」

腕を組んで頭を捻る3人。


「どうするにしても、マルコ次第だ」

フェノンが仕切る。

ネムラゴ私たちへの報酬を自分たちで立て替えるのがアレなのは事実だが、マルコに少しばかり不利益を出されるぐらいでどうこう言うのも今更だ」

フェノンはウンウンと頷きながら語る。

「マルコがやってみたいと言うなら、やってみるといい。ただし、不眠大猴が危険な相手に違いないからな、そこの覚悟は必要だ」

フェノンはマルコを真っ直ぐ見る。

「私に付いて来るんじゃない。自分で決めるんだ」


マルコはフェノンの視線を真っ直ぐ受け止める。


「……やってみてもいいのかな?」

「任せろ」

フェノンが破顔した。



◆◆◆◆◆◆



「では、ご武運を」

クララが2人を見送る。

並んで歩く姿は呆れるほど絵になる。

クララは振り返ると、職員に向かう。

「さて、やることがたくさん出来てしまいました。しかし、皆さんがいつも通りに能力を発揮すれば瑣末な課題です」

クララの檄が飛ぶ。

「皆さんの働きに期待します」

「「「はい!」」」

Aランクパーティを動かすなど、ここからの仕事もまたハードであることは皆分かっている。

しかし、職員の返事に躊躇いはない。

「ヒラケタ支部の実力、存分に発揮しましょう」

「「「はい!!」」」


職員が散開し、慌ただしく働き出す。

クララもまた、困難なミッションに向かうべくギアを入れる。


「支部長補佐」

そんな時、後ろから野太い声が掛かる。

クララの肩にたくましい手が置かれる。

クララは振り返る。


「洗濯バサミはどこに付ければいいでしょうか?」


とりあえず、蹴りあげた。


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