第30話 カテゴリー

「帰った?」

クララの困惑した声がする。

「「ええ。元気よく帰りました」」

「あの? 元気? え?大丈夫だったのですか? 相当に弱っていたようですが?」

「ウチで1日、病院で1日寝たら元気になりましたよ」

「寝? 寝たのですか? 奪眠の呪いに掛かっていたのでは?」

「「……」」

顔を見合わせる2人。

マルコは、肩に乗っているネムをひょいと掴むと、クララに見せる。

そう、ずっとネムはマルコの頭を支えに肩に立っていたのだ。


「コイツ、これでも睡魔ですから」

「あ!」

得心するクララ。

「一応、睡魔使いですからね」

胸を張るマルコ。

「カテゴリー的にはな」

「……」

フェノンを見るマルコ。

ネムが手足をバタバタと不満げに振り回す。

「そう言えば睡魔使いでしたね。オンラインギリギリですが」

「……」

クララを見るマルコ。

ネムも手足をバタバタと不満げに振り回す。


「体調が回復していたなら、大丈夫でしょう。いてもらうと都合が良かったんですが」

「アレが?」

「あんなのが?」

「……何かあったのですか?」

「「色々です」」

「はい」

2人の迫力に、黙る方が賢明だと即座に判断するクララ。この辺りの感性はさすがのエリートである。


「アビノンさんがいれば、介入の口実が作りやすかったなというのはあったんですが、いないのであれば仕方ありませんね」

「介入の口実…」

「とりあえず、クエストを捩じ込みます。確実な成果と事後処理の簡便化を求めるので、Aランクパーティを引っ張り出したいところです」

「エルフにAランク……出来るのか?」

「特災に比べればかわいいもんです」

「確かに」

「後は、支部長この豚がチキらなければ確実です」

「ぶひぃ」

「「……」」


「クヌギ周辺で、ハリオオカミの討伐依頼を出します」

ハリオオカミというのは、毛が固く鋭く尖っているオオカミだ。

針と付いているが、サイズ的には槍である。

危険度は中。

「ハリオオカミを探しているうちに、不眠猴の襲撃に巻き込まれたということにします。通常より高めの報酬を設定するぐらいしか出来ませんが…。Aランクパーティなら裏道から繋げばその辺りは上手く動かせるでしょう」

「そうか…この場面なら下手にBランクよりAの方が動かしやすいか」


Bランクまでは個人の利益を優先すればいいが、Aランクになると公益を優先する義務がある。


「ええ。ただし上手く収めれば、クヌギからがっつりぶんどれる見込みはあります」

『がっつりはいいな』とフェノンが前傾姿勢になる。

「参加資格は?」

「睡魔使い必須にします」

「……不自然極まりないな」

「どうせ情報は回りますから」

「……後始末の方が大変そうだな」

「いざとなれば豚の丸焼きでも振る舞って知らん顔します」

「ぶひ…え゛っ!?」

「「……」」


「しかし、睡魔必須となると、かなり限られるな」

「そうだね。少ないですもんね」

「そうなんです。Aランク『メクジラ』は引っ張り出すとして、保険は欲しいですね」

「睡魔必須でなければウチもやっていいが…」

マルコを見る。

「マルコが言い出した面倒事だしな」

「ネムラゴさんが参戦できれば心強いですが……」

マルコを見る。

「睡魔がネックですね」

「野良でいい人いないんですか?」

マルコが尋ねる。

「幻視獣使いは引く手数多ですし、悪魔使いとなれば尚更ですね…」

「なかなか余ってる睡魔使いがいることはなかろうな」

マルコの肩に戻ったネムがぴょこぴょこしている。

「「「………」」」

3人の視線がネムに集まる。


「野良じゃなくても、例えばDランク、Eランクに睡魔使いがいれば合同パーティを組むという手もありそうですが?」

マルコが建設的な意見をだす。

「DやEでは、不眠大猴との戦闘でリスクが高い」

フェノンが首を振る。

「そうですね。戦闘だけに関して言えば、ネムラゴさんはBランクのボリュームゾーンにあると言えますからね」

「難しいですか……」

ネムがパシパシとマルコの頭をたたく。

「「「………」」」

3人の視線がネムに集まる。


「睡魔使い必須を外す?」

「不眠大猴がいなければ、それもいいですが…後、被害が国一つに及んでるとすると、対抗策カウンターを持っておく方がいいかと」

「そもそもハリオオカミ程度の討伐にAランクを巻き込むには、限定条件で縛る必要もあるしな」

「……そうか。それがあるのか」

ネムがダンダンと足を踏み鳴らす。

「「「………」」」

3人の視線がネムに集まる。


「何かいい案が……」

「メェー」

「うーむ……」

「メーメー」

「何か方法が……」

「メッメメエッー!」


「……マルコさん行きます?」

肩から飛び降りて、飛び跳ねてアピールするネムに根負けしたクララがマルコに聞いてしまった。


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