第28話 世界平和のために

アビノンと別れて厄介払いしてから、1週間、マルコたちは平和だった。


そして、1週間後の昼下がり、リナとメルはテーブルに写真を広げてあーでもない、こーでもないと言い合っている。

「こっちの方がいいんじゃない?」

「構図はそっちのがいいけど、この寝相の方がレア度は高い」

「ああ、確かに。いつも右向きだもんね」

「お前らの盛大な寝相も写真に収めてバラ撒いてやろうか?」

「変態」

「マルコの下手な忍び足に気付かないわけないでしょ?」

リナとメルは今夜の同窓会で、友達価格法外な値段で売りつけるためのマルコの生写真を選んでいる。


「なんで焼肉食べてるだけで、こんなにエロいのかな?」

「焼肉はエロい。この唇についた油がヤバい。肉を見てる目もヤバい」

本人の目の前で、本人写真隠し撮りを広げて、どれを売り捌くか相談するの止めない?」

「知らない所でやられるよりマシでしょ?」

「私たちは誠実」

「そうそう。データだと無限に増殖するところを」

「あえて、写真にプリントアウトしてる」

「「完璧」」

にべも無い。


「それにこれは世界平和のためなのよ」

「持って行かないと暴動が起こる」

「起こるわけないだろ」

「同窓会の半分は販売会よ?」

「回を追うごとににウェイトが増えてる」

「……お前らの同級生大丈夫か?」

2人はふっと笑って写真の選定に戻る


――テレレレレレ…テレレレレレ…――

マルコが頭を押さえたとき、マルコのスマホが鳴る。

「もしもし?」

「もしもし、こちらは冒険者ギルドヒラケタ支部です」

女性の声だった。

「マルコ様のお電話で間違いありませんか?」

「そうですが?」

後ろの方で『なぜ私はグーをををー』とか『おおー生電話なまでんわぁーとか』叫んでいる声が聞こえる。

「お世話になっております。先日、お話を伺いましたクララです」

「ああ、クララさん。先日はお世話になりました。お電話だと声が可憐に聞こえますね。凛々しいイメージがあるので、分かりませんでした」

「あら、相変わらずお上手で。ありがとうございます」

『デュフデュフ』みたいな変な声とか『癒されるぅー』とか叫んでる声が聞こえる。

「向こうスピーカーにしてる?」

「カオス」

リナとメルが、写真の散らばったカオスな机の上を無視して感想を漏らした。


「ギルドに?」

「うん、ちょっと行ってくる」

「クヌギの国?」

「みたいだね」

「大丈夫?一緒に行こうか?」

「リナありがとう。でも話を聞くだけだし、俺だけでも問題ないよ」

「心配」

「メルもまた。大丈夫だって」

「そう?」

「それに、同窓会だろ? 準備もしないといけないだろうし」

「そうだけど……」

「大丈夫だと言うなら……」

リナとメルが写真の片付けを始める。


「私が行こうか?」

台所でクッキーを焼いていたフェノンがひょこっと顔を出す。

「1人でだ…」

「え? フェノンいいの?」

「「!?」」

マルコを振り向く2人。

「ああ、私は特に予定は無いからな」

写真を片付ける手を止めて、リナとメルはじーっと2人を見る。

「ありがとう。助かるよ。ぶっちゃけ俺が話聞いても意味ないしな」

「そうだな」

「真顔で即答するなよ」

「事実だろう」

「事実だからだよ!」

「「………」」

2人をじーーっと見る。


「まあ頑張ったが難しいって話だろうな」

「そうなのか?」

「エルフの国は基本的に不干渉だからな」

「不干渉ったって非常事態だろ? 特別災害支援対象にならないのか?」

「要請があればあるかも知れないが、要請がないだろうからな」

「要請する間も無かったっぽいけど」

「要請があるかどうかが大切で、出来たかどうかは問題じゃない。そう決めたのは、エルフ側だ」

「そうだけど……、まあ、そうだな」

作りかけのクッキーをそのままに、テキパキと用意をまとめるフェノン。

「まあ、行けば分かる話だ。よし、行くか」

「ああ。じゃあちょっと行ってくるから」

「同窓会、楽しんで来てくれ」

「「……行ってらっしゃい」」

そう言いながら部屋を出る2人を追い掛ける2人。


「2人で出かけるのも久しぶりだな」

「カフェ・レオンにミラージュパフェを食べに行った以来かな」

靴を履くフェノンの手を取り、支えるマルコ。

「あれはひどかったな」

「写真だけだったね」

「フルーツソースが全部同じ味というのは、斬新だった」

「写真と違って見た目すらぐちゃぐちゃだったしな」

「「………」」

ふふふと笑い合う2人。

無言で2人を見る2人。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってくる」

「「……いってらっしゃい」」

ごくさり気なくマルコはフェノンの荷物を預かり、フェノンは空いた手でごく当たり前にマルコと腕を組む。

男に混ざっても低くないフェノンの隣に立って、頭一つ高いマルコ。

超高級ブランドの広報誌を、表紙も含め8ページぶち抜きで巻頭カラーを飾った2人の容姿は正に神がかっている。


バタンと閉まったドアの内側で、リナとメルが顔を見合わせる。

「販売価格を上げる必要があるわね」

「この恨み晴らさでおくべきか」


その夜、2人の旧友たちは男性陣がドン引くほど、ぼったくられ、ふんだくられたが、大変満足そうだった。


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