第26話 退院

次の日、ネムラゴの3人は、クエストの報告と、各種消耗品の補充をするため、昼前に家を出て行った。


マルコもここ最近の日課になりつつあるハジテメノ洞窟で、スレプフリープの検証の続きをする………つもりだったのだが、昨日壊れたドアの修理に建具屋さんが来るということで、留守番になった。


平和な1日だった。


修理を依頼された工務店さんが、女性だけのパーティの家ということで、女性の職人さんを派遣したために、その職人さんが大変なことになったりとか、クエスト報告にギルドに行った3人が、やたら気合いの入った職員さんたちがかつてない勢いで仕事をしている様を見たりとかがあったりはしたが、平和な1日だった。


その後も、アビノンが回復したので翌日退院になるという連絡が来て、いくらぐらいかかるか4人で賭けをしたり、久しぶりのフェノンの手料理にマルコが満面の笑みで『やっぱり作り置きとは違うねー』と言ってリナにボコボコにされたりと、やはり至極平和な1日だった。


翌朝、4人は仲良くアビノンの退院手続きに向かった。


待合室に入ると、4人に気付いたアビノンが元気よく手を振る。

「おはよう。 待ってたよ! 元気になったよ!」

「「「「……」」」」

4人はアビノンを認めると、くるりと輪になってヒソヒソ言い合う。

「なぁ、普通、ありがとうとか、迷惑かけてごめん、とかだろう?」

「アイツ、なんなの?」

「してもらって当たり前感が凄まじいな」

「不愉快」

「うむ。ああいう手合いはまともに相手をするだけ損をする。手続きを済ませて、さっさと別れよう」

「「「うん」」」


「あれ? みんなどうしたの?」


「手続きしてくる」

「フェノンありがとう」

「ありがとう、フェノン」

「助かるよ、フェノン」

「うん、待ってる。早くねー」

「「「「………」」」」


「いやー、キツかったー。大変だったんだよー。 マルコのくれたご飯が悪かったんでしょ? 勘弁だよねー、ほんと」

ハハハと笑うアビノン。

「「「………」」」


「まあでも、こうやって元気になったし、気にしなくていいからね! 次から気をつけてくれればいいからさ」

元気元気と腕をふるアビノン。

「「「………」」」


「何? みんなどうしたの? 元気ないね? 心配させちゃった? そうだよね! いきなりお腹痛くなって倒れたんだもんね。 でも、しんぱーいごむよー! すっごい元気になったから! もう大丈夫!」

バンバンとマルコの肩を叩くアビノン

「「「………」」」


「でもさ、この病院のご飯はダメだね。 味しないの。 まずくってさ。エルフ用とか言ってたけど、これじゃ牛か馬用じゃんって! エルフのこと知らなすぎでしょ? ちょっとマジメに勉強しようよーって感じ、マジで」

いーっと顔をしかめるアビノン。

「「「………」」」


「……終わったぞ」

フェノンが戻ってくる。

「お、ありがとうフェノン」

「手間取らせて悪かったわね、フェノン」

「フェノンに感謝」

「あ、終わった? じゃ行こっか」

スタスタと歩き出すアビノン。

「「「「………」」」」


「お大事に」

看護師さんが見送ってくれる。

「「「「お世話になりました」」」」

頭を下げる4人。

こうして、4人と1人が病院を後にする。


「ああ! やっぱり外はいいなぁ! 昨日の昼ぐらいから元気でさ。でも外に出るなって言われちゃってて、退屈で死にそうだったよ」

「死ねばよかったのに」

メルがボソッと言う。

「えっ?」

メルの肩をぽんぽんと叩いて宥めるマルコ。


るんたったーと歩くアビノンの後ろで4人が頷き合う。

「なあアビノン」

マルコが声をかける。

「ん?何?」

「話があるんだ。この先にある店に入らないか?」

少し黒さのある妖しい笑みを浮かべるマルコ。


周囲にばらまかれた極悪な色気に、通行人が気を失った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る