第25話 エルフ病

「エルフ病ですね」

頭の薄い、大きな鼻のおじいさんがカルテを見ながら説明する。

「エルフ病?」

リナが繰り返す。

「ええ。名前の通りエルフ特有の病気ですね」

「危険な病気なんですか?」

マルコも心配そうだ。

「酷くなれば大きな問題になりますが、アビノンさんの程度の症状であれば、休めば治ります」

「そうか。良かった」

フェノンも胸を撫で下ろす。

「どんな病気なんですか?」

メルだって敬語は喋れる。


「簡単に言えば、食あたりです」

「「「「はい?」」」」

「食あたりです。エルフが肉や魚などから動物性の脂質を摂ってしまうと起こる食あたりです」

「動物性の脂質……」

マルコが首をひねる。

「それをエルフ病と言います。何か食べたんじゃないですか?」

「「「……」」」

マルコに視線が集まる。

「動物……あっ!」

昨日、マルコが渡したたまごサンドとカフェオレを美味しそうに食べていた。

「たまごサンド食べて、カフェオレ飲んでました」

「それですね」

大きく頷く。

「美味しいって言ってましたよ、アイツ」

「体壊すのに、普通に食べれるんですか?」

リナが聞く。

「食べるのは問題ありません。食べると体を壊すだけで。我々だって山菜やキノコの食中毒患者は毎年発生してますから」

「確かに」

「量が知れてますから、休めば治ります」

「ふむ。ならこのまま入院してもらえばいいか」

「そうね」

「食事もよく分からない」

ウンウンと頷く4人。


「それは構いませんが……」

お医者さんが言いにくそうな声を出す。

「何か?」

マルコが聞く。

「いえ、治療費と入院費がですね」

「「「「………」」」」

黙る4人。

「エルフの治療は特殊な薬を使うので、治療費が高いんです」

「エルフに適用される保険があると聞いたんですが?」

メルが尋ねる。医者を調べた時にそんなことが書いてあった。


「それが、アビノンさんは事前渡航承諾書がないんです。なので、エルフ特定保険も適用外です」

「事前渡航承諾書がないって……密入国ってことですか?」

「エルフの国というのは、政治的にややこしい立場にありまして……。別に事前承諾を取らないからと言って、密入国とはならないんですが、それがないと色々な補助が受けられないんです」

「アビノンの国は今、混乱してまして、そういった政治的な対応が難しい状況だったんですが…」

フェノンが難しい顔で説明する。

「事情はあるかと思いますが…決まりですので」

申し訳なさそうに返す医者。

「「「「ですよねー」」」」


「流石にこの状況で知りませんは酷いな」

「イメージも悪くなるしね」

「厄介」

「ごめん」

「悪いのはマルコじゃないんだ、謝るな」

「いくらか手持ちあるかな?」

「無さそう」

「マジックバックがあったけど……」

「流石に差し押さえるのもな」

隅っこでコソコソと相談する4人。

「仕方があるまい。ここは、立て替えておいて、後で手数料込みで払ってもらおう」

フェノンがまとめる。

「じゃあそれで」

「みんな、ありがとう」

「気にするな」

頭を下げるマルコの肩をフェノンがぽんぽんと叩く。

「色々あったが、アビノンが助かったんだ。それで良しとしよう」

「そうね」

「いい話」

「ありがとう」


窓口に連絡先を告げて、病院を後にする。

支払いは退院の時にまとめてになるらしい。

帰る前に覗いてみたが、薬が効いてるのか、アビノンはすやすや寝ていた。


「まぁ大丈夫だったみたいで良かったわ」

「良かった」

「今日は焼肉にするか」

「おおっ!焼肉!」

わーいと手を上げるマルコ。

無邪気に喜ぶマルコを見て、3人の目が妖しく光る。


「自分の分は自分で払う」

「え゛っ!?」

「当たり前じゃない」

「う゛ぇっ!?」

「『段々苑だんだんえん』は難しいだろうが、『食客しょっかく』ならいけるだろう。『出会って5秒でステーキ』も悪くないが」

「え、いや、あの……」

困るマルコをからかって遊ぶ3人。

酷いのは3人なのか、衣食住の全てを頼っているマルコなのか。


「冗談だ。好きに食べればいい」

笑いながらフェノンが言う。

「マルコの分ぐらい、私たちが稼ぐ」

メルがペランペランな胸を張る。

「任せなさい」

ふにゃーんと形を変える胸を叩くリナ。

「うう……良くないと思う」

情けなくなるマルコ。

情けないと思っても断らない辺りに、色々手遅れを感じる。


ワイワイ言いながら、4人はお手頃価格で焼肉が楽しめる、人気焼肉チェーン『食客』へと向かって行った。


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