第24話 清潔

「という次第でありまして」

キビキビと事の顛末を話し終えるアビノン

「なるほどな」

腕を組んで難しい顔をするフェノン。

部屋の温度を下げていた殺気はナリを潜めている。


「なかなかハードね」

「不眠大猴は難敵」

「エルフの国の問題をギルドが即決で引き受けたというのが意外だが……引き受けたのだから大丈夫だろう」

ウンウンと頷く3人。


「それにしてもなんでそんな汚いままなんだ?」

「えっあっ…」

自分を見回して赤くなるアビノン。

「コイツ、汚いんだよ。真っ黒な靴下すら気にならないんだぜ?」

凄く嫌なものを見る冷たい視線を送るマルコ。

「それは、寝不足で訳がわからなくなってたからで、普段はちゃんとしてるよ」

ワタワタと言い訳するアビノン。

「風呂も知らないって言うし」

「それは」

「エルフは風呂に入らないと言うな。【清潔クリンリネス】という魔法が使えるからだと言うが?」

「そ、そうだよ。【清潔】があるから汚れないんだよ」

「全然使ってないし、事実汚いじゃないか」

マルコの声はどこまでも冷たい。

「それは、眠れなくて、魔力が回復しないからで……ぜ、全部じゃないけど魔力が回復した今なら使えるよ」

「じゃあ早く使えよ!なんで汚れたままなんだよ!汚いんだよ!」

「それどころじゃ無かったじゃないか!」

「「はっ?」」

「ヒェッ、すみません」

「いいから、早く使えよ」

「ああ、直ぐにやるよ」

そう言うと、ごにょごにょと呪文を唱える。


「何喋ってんだ?」

邪魔したら悪いかなーとヒソヒソ尋ねるマルコ。

「呪文」

気にせず普通の声で答えるメル。

「エルフは幻視獣に頼らず魔法が使えるけど、その代わり呪文が必要」

「へぇー」

「我が身を清めよ!【清潔クリンリネス】」


アビノンが呪文を閉じると、キラキラと光が体を包み、フワッと光が飛び散る。


すると、ぺたぁっとしていた金と緑の混ざった髪とか、どこか煤けていた顔とかが、サラサラのスベスベになる。


「「「「おおっー…」」」」

初めて見るエルフの魔法に感心の声を上げる4人。

「『ス』とは違うな」

「『ス』と比べてもね」

「『ス』だから」

「止めろよ! エルフの魔法ってすげぇなでいいだろ!? いちいち比べるなよ」

「分かっただろ?」

ふふんと胸を張るアビノン。

「だって…」

「なぁ?」

「うん」

「その温かい目はなんだよ!?」

「あの?」

「だってクラスチェンジしてポンコツ化って」

「そもそもポンコツだったのに」

「レベルが高すぎる」

「ポンコツって言うなよ!」

「清潔…」

「ポンコツと言わず」

「「なんと言う?」」

「うぐっ……いや、ポンコツだけどさ…そんな面と向かって言わなくても…」

「「「ふっ」」」

「鼻で笑うなよ!」

「いや、聞けよ!」

アビノンが叫ぶ。

「ああ、そうだった。用が済んだんなら帰ってくれよ」

「国が大変なんでしょ?」

「早く戻る」

「昏睡薬が役に立つことは絶対ないが、早く帰るといい」

「えっ? ちょっとドライ過ぎない?」

「昏睡薬はないよね」

「アレは無理」

「あの薬を使おうって発想が凄いよな」

「昏睡薬だからな」

「『ス』より無理」

「『ス』以下って終わってるよね」

「常人には参加資格のない戦いだな」

「だからいちいち比較するなよ」

「いや、普通、力を貸すよとかなる場面だろ?」

「なんで?」

「えっ?いやだって…困ってるなら力になろうとか、ほら、こう」

「「「………」」」

「そういう人情的なものが、こうさ…」

「「「………」」」

「動かす場面じゃないかと」

「「「クモネコ」」」

「うっ……」

「自分で売った喧嘩」

「暴言吐いといて、同情で手伝ってもらえるとか、甘すぎよ」

「まぁマルコがどうしても助けたいから力を貸してくれと言うなら、考えないことはないが」


4人の目がマルコに集ま「ないない」

ノータイムで顔の前に大きくバツを作るマルコ。


『ウソだろぉ!?』という顔をするアビノン。

「ギルドに話して、ギルドが善処してくれるって言うんだから、俺たちのやれることは無いだろ? 必要ならオファーが来るだろうし」

「ということだ」

「さ、早く行かないと」

「仲間が困ってる」

4人から、躊躇なく帰れと言われるアビノン。


「ひど……あれ? あ、うわ…うぅ」

突然うめき始めるアビノン。

その顔は青くなり、脂汗が浮いている。

「何?」

「どうしたんだ?」

「なんか変ね?」

「大丈夫か?」

「うぁう……ぐっ…お腹が…痛い」

お腹を押さえてうずくまるアビノン。

「「「「……」」」」

「なんかマジなヤツっぽいわね」

「エルフの事が分かる医者っているのか?」

「調べてみる」

「色々起こるな」

サクサクと手配を進める3人と、オロオロする1人。


メルがエルフも診れる医者を探し、病院へ運び込んだ。


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