第23話 マルコの補充

アビノンは戸惑っていた。

久しぶりの睡眠から覚めると、可愛かった羊がなんか、でかくなっていて驚いた。

それに、優しかったマルコが妙に冷たい。

『あれー?』と思っていると、突然部屋のドアがぶち破られて、3人の女の子が入って来た。

『誰っ!? 何っ!?』と思う間もなく、緑の髪の子と、赤い髪の子がマルコに絡み付きだして、言葉を失った。


完全に流れに乗り損ねたまま、事態を眺めていると、3人が寄って集ってマルコをバカにして、大笑いしている。

いよいよ『なんだコイツら?』と思い始めた段になって、緑が改めて聞いてきた。


『アナタ、男と女どっち?』と。


以上を踏まえて、アビノンの中で、この3人娘は礼儀もマナーもなってない、ろくでなしということになった。



「で、アナタは男と女どっちなのよ?」

リナが再び聞く。

「だからなんで名前とかじゃなくて性別なんだよ?」

「気になるからよ!」

シンプルだった。

「気になるって、どうみ」

「なんだお前ら?」

マルコを遮って割り込むアビノン。

しかも敵意に溢れている。


「「ん?」」

リナとメルが反応する。

意外にも売られた喧嘩は買って行くのがこの2人である。

「なんだって何?」

「てめえの方が何だ?」

「いやいやおち」

「お前らに行ってんだよ。発情期のクモネコみたいな顔しやがって」

「「あぁ?」」

一気に気色ばむ2人。


ちなみにクモネコというのはモンスターの種類で、8本足の猫みたいなヤツだ。このモンスターは雌しかおらず、発情期になると他種族の雄とムリヤリ交配する。

普段は一日24時間の内、28時間ぐらいは寝てるほど不活発なのだが、発情期になると活動時間が20時間を超えるほどアグレッシブになる。


ごくごく常識として、女性に対してクモネコみたいというのは、禁句タブーだ。


「ヒェッ」

冒険者荒事のプロ2人の殺気に怯むアビノン。

「じ、事実じゃな、ないか」

それでもアビノンはがんばる。


「「あぁん!?」」

凄む2人。

完全にその筋の方の雰囲気である。

「まあまあ落ち着けって」

マルコがなだめに入る。

2人がブチギレるのは慣れてるので、ビビったり慌てたりはしない。

「あいさつもしなかったのは事実だしさ」

「む……」

「いきなりドアぶち破って現れたら、普通は引くよ」

「う…まぁ確かに」

「な? そうだろ?」

『むむむ…』と黙る2人。

「でも、クモネコは失礼」

「そうよ! 人をあんな自分を殺しに来たハンターすら襲う変態モンスターと一緒にするなんて」


発情期のクモネコは本当に見境がなく、討伐に来たハンター達を、集団で囲んで罠にはめ、食べちゃう事もある。

しかも、普段のやる気の無さはなんなのか?と思うほど狡猾だし、この期間だけ群れを結成しその連携は熟達している。

オスを襲う。その一点においては【危険度:高】になる尖り倒したモンスターである。

ちなみに、殺されたり、食われたりはしない。ただ搾り取られるだけだ。


「いや、普通、現れると同時に初対面の人の前で、男を撫で回したり、男の指をくわえたりするのは充分変態の域だと思う」

「でも、発情は失礼」

「そうよ、発情じゃないわ」

『ねー』とニコニコ頷き合う2人。その後、真顔でマルコの方を見る。

「「マルコの補充」」

息ピッタリだ。


「だから俺の補充ってなんだよ!?」

「1週間も離れてたのよ?」

「マルコが切れる」

何を当たり前のことを、みたいな顔で答える2人。

「マルコを補充しとかないと、困るじゃない?」

「常に新鮮なマルコが必要」

「「ねー」」

息ピッタリだ。

「もういいよ…」

頭が痛いマルコ。


「こっちに失礼があったことは認めるが」

おもむろにフェノンは話し始める。

「それで、貴様はなんだ?」

急に部屋の温度が下がった気がする。


「ふぇ、フェノンさん?」

マルコが恐る恐る尋ねる。

「なんだ?」

ニッコリ笑うフェノン。

「なんでもありません」

必死に首を振りながら、スススっとアビノンまでの道を開け、リナとメルの方へ避難する。


「それで、貴様は、なんだ?」

ゆっくりと、再び問い直す。

「ア、アビノンです。クヌギの国のエルフです」

飛び上がってピシィっと気をつけして答える。

「そうか。私はフェノンだ。そっちの緑の髪がリナで、赤い髪がメルだ」

凄惨な笑みを浮かべたまま優雅に応じるフェノン。

フェノンが喋る度に、マルコ、リナ、メルの3人は小さく震えながらジリジリと後退る。


「それで、なぜ、ここに、いるのか、洗いざらい、全部、喋れ」

冒険者パーティ荒事のプロ集団リーダー筆頭はフェノンだった。


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