第22話 『ス』
「マルコの補充は後にして、今は『ス』だ」
パンパンと手を叩いて仕切るフェノン。
「俺の補充ってなんだよ!? あと『ス』って略すなよ」
「そうね、今は『ス』ね」
「『ス』」
「……もういいよ」
「「「で、どんな?」」」
「う゛……」
分かりやすく萎れるマルコ。
「「「で、どんな?」」」
分かっていて攻める3人。
そう。マルコだって素人ではないのだ。これでも2年間ぐらいは前向きに冒険者に取り組んでいたのだ。
例え、フェノンのオマケだったとしても。
ついでに今は無職のヒモだけど。
名前が微妙でも、効果がちゃんとしていれば、落ち込んだりしない。
大事なのは使えるかどうかだと分かっている。
だから萎れてるんだけども。
「……チャージ式でさ……」
「「「チャージかぁー」」」
3人がハモる。
「「「ハズレ決定」」」
3人はハモる。
チャージ式の魔法というのは、発動に溜めを作ることができる魔法だ。
大体、溜めれば溜めるほど威力が上がるロマン砲。それがチャージ式。
しかし、溜めなければ使えない。
しかも、チャージ式の魔法はチャージ中に動けない。他のこともできない。
棒立ちにならないと使えない。
戦況が変わり、相手も動く戦闘中に、溜める時間というのはない。
よってソロでは使えない。
仲間が盾になれば溜めることもできる。
しかし、チャージ式の威力が必要になる
例外はあるが、強い敵は頭がいい。
なので、チャージを始めると真っ先に潰される。
そのため、チャージ式の魔法を使うのは、大型パーティや合同パーティなど大人数で強敵を相手にした大規模戦ぐらいだ。
マルコに声が掛かることはない。
普通の敵なら、発動の短い魔法を連発する方が圧倒的に堅い。
「射程は?」
メルが聞く。
ハズレ確定であっても、可能性を探る優しさを持った仲間たちである。
元だけど。
「……」
黙るマルコ。
「変化なしかぁ……辛いねぇ」
神妙な顔だけど声が少し弾んでいるリナ。
「数センチは……厳しい」
いつも表情に乏しいくせに、分かりやすく、眼尻が下がっているメル。
うーんとたぶん悩んでいる2人。
「厳しいな」
簡潔にまとめるフェノン。
しかし、現実は甘くない。
「…………くな……だ……」
「ん?」
「なんて?」
「なっ!?」
そんなバカな…と絶句するフェノン。
「「なんで聞き取れるの!?」」
幼馴染におののく2人。
「「で、なんて?」」
フェノンの反応で分かってるけど、面白いからもう一度言わせる2人。
「……短くなったんだ……射程」
「「「………」」」
沈黙の後。
「無いわー」
「まさかのポンコツ化」
「あれ以上となると……接触型になったのか。ますますもって絶望的だな」
持ち直したフェノンが、容赦ない評価を下す。
接触型というのは、文字通り対象に接触することで発動するタイプの魔法を言う。
「発動は諦めるとして、効果はどうなのよ?」
「発動諦めたら効果意味ないだろ!?」
「ここまで来たら、後はポンコツを競うゲーム」
「ふむ。使えなさ過ぎる魔法として未来永劫語り継がれるかも知れない」
「嫌だよ! 何の罰ゲームだよ!それ!」
「「「で、チャージの効果は?」」」」
三者三様の期待に満ちた顔で聞かれる。
「……連続発動」
「何それ?」
「連続発動ってどういう?」
「言葉の通りなら連続で発動するということだが?」
「言葉の通りだよ……溜め時間に応じて連続で発動するんだ」
「「「まさか?」」」
「スレプフリープが、だよ」
「「「うわー」」」
「ああそうだよ! 成功率の変わらない! スレプフリープが連続で発動するんだよ! 寧ろ射程が短くなって劣化したよ! 笑いたいだけ笑えよコノヤロウ! 俺がうわーって言ったわ! うわーって叫んだわ! コノヤロウ!」
開き直るマルコ。
「ヤバい、お腹痛い!」
「さすがマルコ。想像の上を行く」
本当に笑い転げる2人。
「ふーむ…」
フェノンは腕を組んで悩ましい顔をしている。
そのまま雑誌の表紙にしたら売上部数が上がりそうな、得も言われぬ色気がある。
「チャージ時間と、発動回数は分かるのか?」
笑い転げる2人と対称的に、真面目な顔で尋ねるフェノン。
「え? ああ、大体。2秒ごとに1回プラスだった。最長でほぼ5分。150連続だった。ベースが10秒の溜めで、そこから最短は6秒。16秒で4連発」
「ふむ。成功率は?」
「変わらなかったよ」
「試したのか?」
「ああ、ハジテメノ洞窟でハエトリネズミ相手に」
「なるほど」
「1度発動すると打ち切るまで止められない。チャージから発動まで5秒の猶予がある。5秒以内に発動しなかったら
「他には?」
「スレプフリープを連続で使うより、回転率が高い。フリープスはチャージ含めても150発打ち終わるのに、大体6分半。フリープだと10分以上掛かるから」
「ほう」
真面目なフェノンに釣られて、少し居心地が悪そうに居住まいを糺す2人。
「フェノン、何かあるの?」
「いや、大した事じゃない」
そう言った後、
「いや、大した事ではあるな」
と言い直す。
「何?」
「使い道があるの?」
「あるのか!?」
真面目な顔の3人。
この類稀なる天才が、マルコのポンコツ魔法に使い道を発見したのかと、期待を寄せる。
「マルコが、検証していた」
「はい?」
「何?」
「なんだよそれ!」
「なんだってマルコが自分の能力を検証しその効果を確かめていたんだぞ。しかも、2種類を比較していたんだ、凄いじゃないか! 検証した結果、使えないことが分かっただけだとしても、大きな進歩だ!」
大きな手振りを混じえ、迫真の演説をするフェノン。
「確かに、マルコが自分で考えたというのは盲点だったわ」
「普通なら普通にやること。それをマルコがやった。それは確かに快挙」
拍手する2人。
「言い返せない自分が情けない……」
「『ス』もポンコツだったのは予想通りだったが、クラスチェンジ出来たんだ。相変わらずのとぼけ羊の呆れるほどの使えなさから言って、まだチャンスぐらいは残ってると考えてもバチは当たらないだろう」
「所々、刺さるんだが…」
「どうしてクラスチェンジ出来たんだ? 流石にきっかけ的な物があったんだろう?」
「あ、ああ、そうだよ。アビノンに…」
そこで改めて、全員の視点がベッドに座ったままのアビノンへ向く。
「「「「…………」」」」
沈黙。
ネムラゴの3人がチラチラと視線を交わし、無言でつつきあう。
しばらく何とも言えない空気が流れ。
代表してリナが聞くことになったらしい。
「えーっと………アナタ、男と女どっち?」
「質問がおかしいからな」
マルコが静かに突っ込んだ。
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