第20話 聞き耳

階段を上がると3つの部屋がある。

一番手前がリナとメルの部屋。

真ん中がフェノンの部屋。

一番奥がマルコの部屋。

3人はソロリソロリと一番奥へと向かう。


3人が列を作り、大きな荷物を背負ったまま自分の家で足音を殺して移動する様は、なかなかにシュールだった。


ススっとメルが扉に近づき耳をつける。

外壁は防音処理がしてあるが、扉までは防音になっていないため、耳をくっつければ中の音は聞こえる。

その横に同じようにリナが並ぶ。


メルは正面からペタッと扉にくっ付いているが、リナは半身になっているところが違う。

障害物の違いである。


フェノンは少し離れた所に立って腕を組み、目を瞑っている。


〖2人ね〗

唇の動きだけで話すリナ。

〖知らない声が騒いでる〗

同じくメル。

読唇術により会話だ。モンスターなどに察知されずに作戦を立てる時や、尾行の時など、音を出さずに会話する方法があると非常に役に立つ。

〖珍しいな。マルコが友達を連れて来るなんて〗


〖男? 女?〗

〖…………〗

沈黙の表現も完璧である。


【な、な、なんでそんな大きくなってるんだよ!?】

【なんでって……君のせいだろ?】

【………】

【 あんなに気に入ってたじゃないか。ずっと触って、弄っていたのに】

【だ、だって、気持ちよかったんだもん……】

【まぁいいけど。それにしてもよくそんなんで寝れるな】

【そ、そんなんって?】

【その汚れだよ。髪なんかドロドロじゃないか、汚らしい】

【き、汚いなんて言うなよ! 激しかったんだから仕方ないじゃないか!】

【仕方ないって言えるぐらいには、はっきりしてきのか?】

【あ、あの時は、さすがにおかしかったんだ】

【まぁフラフラ付いて来たぐらいだからな】

【問答無用だったじゃないか!】

【ふん】

【ふ、ふん!? ふんってなんだよ!?】

【まぁいい。起きたんならさっさと出て行ってくれ。そろそろ同居人も帰って来るし】

【で、出て行けって、ヒドイじゃないか! やりたいからって連れて来ておいて、終わったら出て行けなんて】

【はぁ? 何言ってんだよ? 君だって気持ちよかったんだろ?】

【気持ちよかっ……気持ちよかったけ

――ドカーン――

「あ、アンタら何してんのよ!?」

扉をぶち破って、リナが飛び込む。

続いて、メルも飛び込む。

メルの手には、しっかりとスマホカメラが構えられている。

「「へっ?」」

突然の事態に固まるマルコとアビノン。


別に2人は何もやってない。

寝起きのアビノンに、マルコが帰れと言っているだけだ。


「人ん家で何やっ…て、え? あ、アンタ……え? どっちよ!?」

リナがビシッと突き付けた手が戸惑ってぶれる。

「……エルフ?」

油断なくスマホカメラを構えたまま、メルが呟く。

「鍵がかからない部屋なんだから、壊さなくても入れたのに」

蝶番が外れた戸板を『よっこいしょ』と立て掛けて、フェノンが入って来る。

マルコの部屋は鍵が掛からない。

他の2部屋は鍵が掛かる。


「ただいま、マルコ」

『やぁ』と手を上げるフェノン。

「あ、ああ、おかえり。無事だった?」

平常運転のフェノンに引きずられるマルコ。

「ああ、問題ない。上々だった」

「そうか。それは、良かった」

「ふむ。それはともかく、それは?」

フェノンが指さす。

「そ、そうよ、誰よそれ!?」

我に返ったリナが乗っかる。

「いや、その汚れたエルフはいいんだが、それより、それだ」

「ふぇっ? えっ? えぇっ!?」

改めてフェノンの指した方を見ると、指はアビノンではなく、マルコの方……その肩を指している。

「それネム?」

メルが反応する。

「デカくない?」

「デカいな」

「それより、立ってる」

皆が注目した先には、二本足でマルコの肩に立ち上がり、前足をマルコの頭に乗せ、前と変わらない小さな丸っこい羽をパタパタさせる、知ってる姿より2回りほど大きくなった真っ白い羊がいた。

「メェー」

「あ、ああそうなんだ。クラスチェンジしたんだ」


フェノンが指したのは姿が変わった、マルコの幻視獣・ネムだった。


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