第12話 クヌギの国の受難
アビノンはエルフが治める国の一つクヌギを護衛する王属騎士団団長ビシウィの長子だった。
この世界のエルフはおよそ400年から500年という長い寿命、不老性、中性的な美貌、幻視獣の力を借りずに魔法が使えること、絶対数が少ないことなどから神秘の種族として認められている。
その性格は穏やかで争いを嫌う。
反面、頑固で排他的でもあるが。
クヌギの国もエルフらしい穏やかな国であったが、近くに住み着いたモンスターにより事態が急変する。
モンスターの名前を【
白夜猿は、人の手のひらに乗る程度の弱い小さな猿で、大した実害のない下級モンスターである。
この猿は眠ることが出来ず、周りから眠りを奪うことで生きている。
と言っても、元々弱いモンスターなので強い相手から奪うことはできない。
ネズミや、小鳥など小動物がその獲物だった。
その日、その森には白夜猿のつがいがイチャイチャしていた。
その時、たまたまそこを散歩に来たエルフが通った。
白夜猿の雄は、お調子者で、しかも彼女の前だったので、ふざけてエルフに奪眠の呪いを掛けた。
本来であれば、エルフにそんなもの効くはずがなく、『やっぱりダメじゃない、バカね、ふふふ』と盛り上がるはずだったのだ。
雄も雌もそのつもりだった。
しかし、エルフにとっては間の悪いことに、そのエルフは妊娠していた。エルフ本人も知らない話だった。
奪眠の呪いは、母親には当然効かなかったが、中のまだ未成熟ながら生命としての機能――睡眠――を備えた胎児には効いた。
効いてしまった。
未成熟で脆弱と言えども、エルフはエルフ。その身体には魔法を使う素養・魔力がある。
奪った眠りと共に白夜猿に流れ込んだ高純度の魔力が流れ込む。
白夜猿の小さな体では受け止め切れ無かった魔力が溢れ出し、隣の雌にも流れ込む。
魔力を受けて白夜猿の体に変化が起こる。
白夜猿は【
不眠猴は、人の腰程までの背丈がある。その奪眠の呪いも強力になっており、白夜猿が危険度:無しであるのに対し、不眠猴は危険度:小だ。
それでもまだ『
更に3つの不幸が重ならなければ。
1つは不眠猴が、つがいで生まれてしまったことだ。雄だけなら、もしくは雌だけなら、それで終わりだった。
しかし、雌雄が揃ってしまったがために、繁殖してしまった。
これが1つ。
もう1つは、魔力が胎児の物だったことだ。母親がまだその存在に気付かないほど小さかった胎児は、その体と同じように、魔力もまだ不定形であった。
そのため、モンスターに取り込まれた魔力が、恐るべき効率でモンスターに適合した形へと変容した。エルフの特徴は残したまま。
結果、エルフの魔法が効かない不眠猴が大量に産まれるという悲劇が起こった。
エルフの放つ魔法も、エルフを守る魔法も効かない。エルフに特化した不眠猴が国を襲った。
その優位性を魔法に頼っていた騎士団が、その事に気付くには、しばし時間を要した。
その僅かな対応の遅れが、手遅れを招いた。
騎士団を突破した幾匹かの不眠猴の毒牙が、クヌギの王宮に住む
ここで最後の不幸が起こる。
エルフの上位種であるハイエルフの魔力を受けた不眠猴が再びクラスチェンジを起こした。
危険度:
奪眠の呪いの恐ろしい所は、問答無用で眠りを奪われること、つまり、休息が出来なくなることにある。休息が出来なければ回復が出来ない。
それはつまり、時間は不眠猴の味方をするということである。
騎士団が魔法を使えば使うほど、剣を振れば振るほど、何かをすればするほど、衰弱が進み、ますます弱体化が進む。
睡眠を取り戻すことが急務だった。
そこで辿り着いたのが、昏睡薬である。
しかし、騎士団は不眠猴に対応するため国を離れられない。
そこで、騎士団の子ども達で昏睡薬捜索隊を結成し、各地へと派遣した。
材料の所在地が一番遠い、ここハジテメノ洞窟に騎士団長の息子であるアビノンが単身やって来たのだが、睡眠不足がたたり、ここで倒れてしまった。
◆◆◆◆◆◆
洞窟にもたれ掛かりながらも、身振り手振りを混じえて長広舌をふるうアビノンを見ながら、マルコは見た目より元気そうだなーと安心した。
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