第10話 女子会
マルコの悲鳴が上がる少し前、とある宿屋の一室にネムラゴの3人はいた。
「ふーむ……失敗したかもしれないな」
白い紙が顔に引っついた人が言う。
キョンシーではない。
フェノンだ。
寝る前のお肌のお手入れの時間だ。
無頓着そうに見えてフェノンは美容に関して物凄くマメである。
そうでなければ、冒険者をやりながら髪を腰まで伸ばしたりしない。
「何が?」
チョコレートのついた細長いクッキー『ポキリン』をポリポリ食べながら聞くのはリナだ。
寝る前だろうがなんだろうが気にせず食べまくるのがリナだ。
またそぞろダイエットとか言い出す頃合である。
「いや、マルコの食事を、だ。足りない気がする」
「はあ? なんで? 10日分ぐらいは作ったわよ?」
「今回はリナが作ってくれたな。助かった。ありがとう」
「いいわよ。クエスト前は準備大変だからね。手分けしてやらないと」
パーティの仕事の中にマルコの世話が入ってる辺りがネムラゴである。
「それよりなんで足りないのよ?」
「ふむ。思い出してみるとマルコの好物しかなかったんだ」
「……それで?」
リナの顔がちょっと赤い。
「リナはマルコに甘い」
「なな何がよ!? 普通よ! 普通!」
「マルコと一緒に住み始めて料理を覚えた。昔は私と似たようなものだった」
「たまたまよ!たまたま覚えようと思ったタイミングが、ネムラゴ加入と被っただけよ!人数が増えて時間に余裕が出来たからよ! それに、元々アンタよりマシだったわよ!」
「似たようなものだった」
「似てないわよ!アンタのは、『マルコよりマシ』なレベルでしょうが! 食べれないのがマルコで、無理すれば食べれなくはないけど、緊急時以外は絶対に食べたくないのがアンタでしょ! 私は、普通よりちょっと下手ぐらいだったわよ!」
「フェノンから見ればどんぐりだった」
「うっ」
リナが料理を作る姿を見たフェノンに『食事は私の担当だな』と屈託なく言われたことが思い出される。
そうして作った料理を『珍しい味付けだね』とマルコに評された思い出がセットだ。
「後、『たまたま』もおかしい」
メルの追撃は止まない。
「プライドの高いアナタが、『料理教えて欲しいの…』って突然フェノンにお願いしたのが、たまたま? それを頼んだのが、前日にアナタの料理を食べたマルコが次の日フェノンのご飯を食べて『やっぱりフェノンの料理はいつ食べても美味しいなぁ』って言ってた次の日だったけど、たまたま? その日の夜、ベッドでこっそり泣きながら『絶対美味しいって言わせてやる』て呟いてたけど、たまたま?」
「なんでそんなこと覚えてんのよ!?アンタは!?」
「その後のことも覚えてる。というか録音してある」
ボンっ顔が赤くなるリナ。
「消せ! 記憶とデータを消せ! いや、アンタの存在ごと消してやる!」
キャイキャイと賑やかな2人。
「ふーむ。好物だけだと、いつもよりよく食べるからな、マルコは」
2人を全く気にせずマイペースにフェノンが喋る。
「そうなの?」
「うむ。だから私が作る時は苦手なものを少し混ぜる。すると食べるペースが安定する。混ぜ加減にコツがいるんだ」
「な、なるほど」
「でも、お金も持たせてる。食べに行けばいい」
メルが正論を言う。
ちなみにメルは毛布にくるまっている。
その下は何も着ていない。
気心の知れた女の子だけだと、気にしないのがメルである。
「うむ。そうなんだが」
フェノンの顔が少し渋い。
「いやいや、いくらマルコでも外食ぐらい出来るわよ?」
「うむ。そうなんだが」
フェノンの顔はやはり少し渋い。
「昼間ならな。昼間なら問題はないと思うんだが……夜は怪しい」
「なんで?」
「夜は酔客が多い。夜のマルコは酔っ払いホイホイだからな」
「「………」」
想像する2人。
「「ああ…」」
そして、納得する2人。
――メッセーン――
リナのスマホが鳴る。
メッセが届いた着信音だった。
「マルコだ」
昼間にクエスト完了の打ち上げでパフェを食べた時の写真を送っていたのでその返信だろう。
「俺にも食べさせろ!」
「………飢えてる?」
「飢えてそう」
「まあ、子どもじゃないんだ。どうにでもするだろう。それに明後日には帰る。最悪、水はあるんだ。2、3日ぐらい食べれなくても死にはしないさ」
フェノンのドライな意見に、逆に心配が増す2人だった。
ちなみにこの後、【マルコ、ラーメンを食べに行く】という緊急クエストが発生するのだが、詳細は割愛する。
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