第8話 計画して食べること
「私たちは明日から、クエストで出掛ける」
すっかり日が暮れてマルコがパーティハウスに帰るとメルがそう告げた。
「いつも言うけどさ、とりあえずパジャマ着ろよ!」
お風呂上がりのメルはいつも下着姿でウロウロする。
メルはその年齢より幼い外見に似合わず、なかなかアダルティな下着を好む。
今日も紫のレースでできた色々透けて見えそうでしっかりと見えない格好をしている。
マルコに見られても、少しも気にしてない。
犬か何かと思われているのだろうとマルコは思っている。
実の所、元々メルは裸族で風呂上がりは素っ裸がいいのだが、マルコに気を使って下着だけは付けているという話もある。
自分の格好を見直すメル。
「ドコミテンノヨ」
見事な棒読みをして話を続ける。
「私たちは明日からクエストに出掛ける」
「俺の意見はスルーだな、期待はしてないが。どこ行くんだ?」
「気になるの? ストーカー?」
「違うわ! どこでもいいよ! もういいよ!」
「ふふん」
「何に勝ち誇ってんだよ!?」
「1週間ほど留守にする。ご飯は冷蔵庫に入れてるから、計画して食べること。初日に全部食べちゃダメ」
「子供か!?」
「大人はお小遣い貰ったりしない。自分で稼ぐ」
「ぐぅっ…」
何とかぐうの音は出たマルコだった。
「私たちがいなくて寂しいからって、変な女を連れ込んじゃダメだから」
「しないよ!? したことないだろ!? モテないんだよ、俺は……」
「…………」
「可哀想な物を見る目を止めろよ!」
余談だが、メルには驚いた顔が無表情に見える傾向がある。
「うん。認識の相違を改めるとやぶ蛇になりそうだから、今日はここまでにしとく」
『おやすみ』と言って2階に消えて行った。
『おやすみ』と見送るマルコ。
後ろを向いたメルは、見慣れたマルコをもってしても非常に目のやり場に困る格好をしていた。
◆◆◆◆◆◆
次の日もマルコはハジテメノ洞窟に来ていた。
今日もハエトリネズミを相手にスレプフリープの練習をする。
そう、一昨日の夜、マルコが考えたのはこの自分が使える唯一の魔法、スレプフリープとちゃんと向き合うことだった。
使い勝手が悪いを通り越して、使える場面が皆無なスレプフリープは、長い付き合いの割に、ちゃんと使ったことがない。
モンスター相手には危なくて使えないし、モンスターじゃないものに使おうとすれば、それは犯罪だ。
そんな訳で、絶対安全な場所で、絶対安全なモンスターを相手に、とにもかくにもこのスレプフリープを使い倒してやろうというのがマルコが辿り着いた結論だった。
それに、ハジテメノ洞窟は皆無と言っていいほど、人が近付かないので、失敗しようが、悪態をつこうが人目が気にならないというのも大きな魅力だった。
「よし、今日もやるぞ!」
気合いを入れると、マルコはライトを片手に洞窟に入って行った。
カツーン、コツーンと響く足音にやはりちょっと緊張しながら、昨日と同じ辺りまで来ると、同じように4匹のハエトリネズミが固まっていた。
マルコの肩から、ネムがパタパタと飛び出し、ネズミの所へ行く。
『メエメエ』『チューチュー』と会話なんだかなんなんだか分からないやり取りをして、ネムは再び肩に戻る。
ネムを何とも言えない顔で迎えるマルコ。
「お前、ハエトリネズミと話せるのか?」
ネムはつぶらな瞳のまま『メエー』と鳴く。
肯定か否定かさっぱり分からない。
その日も日が暮れるまで、スレプフリープを使いまくった。
終わり際に、昨日は出来なかった『4匹同時に眠らせる』という成果を上げ、4匹と1人と1匹はハイタッチをして喜んだ。
次の日も同じように洞窟に行くと、ネズミが6匹に増えていた。
別に増えてようが危険は全くないので気にせず、スレプフリープを打ちまくる。
4日目。ネズミが10匹に増えていた。
5日目。ネズミは18匹に増えていた。
6日目。ネズミは34匹に増えていた。
7日目、66匹のネズミを相手にスレプフリープを連発しながら、マルコはある傾向に気付いた。
最初から手伝ってくれている4匹の成功率が高いことだった。
ハエトリネズミの個体差は人間の目には全く区別が付かないので、初日からいるネズミ、3日目からのネズミ、4日目、5日目、6日目そして今日からとグループに別れてもらって――口で説明したら通じてビックリした――それぞれに魔法を掛けていく。
すると、ベテランのネズミの方がよく掛かる。
初日からいる4匹は成功率はほぼ3割。
3回に1回は成功する。
反対に今日から参加しているネズミはやはり相当な試行数が必要だった。
そしてもう1つは距離。
ギリギリ触れないで発動した場合と、触れて発動した場合だと、触れて発動した方が成功率が高い。
初日からのネズミに触れながら発動した場合、2回に1回の成功、つまり成功率は5割まで上がった。
そしてそして、前日、眠らせたネズミと、前日眠らせられなかったネズミを比べると、前日眠らせたネズミの方が掛かりがいい。
両者を比べると、おおよそ1割程度の差異があった。
それらの情報をまとめながら首を捻る66匹と1人。
もう1匹は、連日の魔法の酷使でさすがに疲れているのか、マルコの肩に留まってメピィ…メピィ…と寝息を立てていた。
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