第4話 壮行会
「ふんふふーん」
ご機嫌で皿を洗うフェノンの鼻歌が聞こえる。
キラキラした笑顔のメル。
ちょっと罪悪感に苛まれているリナ。
そして、泣いてないのが不思議なマルコ。
パーティハウスはちょっとしたカオスだった。
正しくメルの予言通りに、打ちひしがれて帰って来たマルコを迎えたのは、曇りのないフェノンの笑顔と、豪華な食事だった。
『仕事、決まってないです……』と蚊の鳴くような声で絞り出すマルコを、メルの
最高の盛りあがりを見せた瞬間ではあった。
ちなみに勘違いだと聞かされたフェノンは、ポンと手を打つと『そりゃあ、そんなトントン拍子に行くなら、パーティで役割もあるはずだな』と大きく頷いて、マルコにトドメを刺した。
更にちなみに就職おめでとうパーティーは、驚きの手際の良さで『マルコの壮行会』へと姿を変え、つつがなく開催された。
キラキラした笑顔のメルの
『仕事、決まってないです……』
というマルコのセリフが繰り返され『癒される』とご満悦だ。
「もう、やめろよ!」
キレ気味にマルコが言っても
「嫌だ」
の一言で終わりである。
「ちょっとカワイソ過ぎない…?」
リナが控えめな提案をする。
「そう思うなら、リナは
「嫌よ!」
とんでもないと即座に否定するリナ。
「そもそも、マルコがこうなったのはリナのせい」
「なんでよっ!?」
「リナが出て行けって言い出さなければ、マルコが無職になることはなかった」
「そ、それはっ!!」
ぐぬぅっと言葉に詰まるリナ。
「マルコが死にそうな顔をしてるが大丈夫か?」
片付けを終えたフェノンが戻ってくる。
可愛らしいクマとキリンが描かれたパステルピンクのエプロンがビックリするほど似合ってない。
「まあ、すぐに上手く行くわけじゃない。ネムラゴだって最初は苦労したんだ……っけ? そうでも無いな…ほぼ順調にDランクに上がったものな、うん」
マルコがびくっとする。
『ほぼ』の部分に思い当たる節があるからだ。
「今日はおいしい物を食べて英気を養ったんだ、明日は上手く行くだろう。根本的な問題が解決してないから難易度は変わらんが」
マルコがずーんとなる。
「そんな心配しなくともマルコの生活費ぐらい私が稼ぐから、焦る必要はないぞ。すっかりヒモだが、もともと似たようなものだったから気にすらな」
フェノンはカラカラと笑う。
「それに、マルコが抜けたことでクエストの効率が上がるからな、今までより楽になるぞ。良かったな」
フェノンのクリティカルヒット。
マルコは逃げ出した。
ネムがパタパタとついて行く。
走り去ったマルコを見送って、フェノンは『お風呂にしよう』と立ち上がる。
それを見ていた
「たまに思うんだけどさ?」
「うん」
「フェノンて実はマルコのこと嫌いなんじゃないの?」
「うん」
トントンと軽い足取りで階段を上がるフェノンを見送る2人。
◆◆◆◆◆◆
マルコが逃げた先は自分の部屋だ。
パーティハウスは、1階がLDK・風呂・トイレの共有スペースで、2階がプライベートスペースになっている。
しかし、2階には3部屋しかない。
そのうちの一部屋をフェノンが、もう一部屋をマルコが、残りの一部屋をリナとメルが2人で使っている。
自分の部屋とはあるが、パーティハウスはフェノンの名義で借りられており、賃料や光熱費の類は全てパーティの収入から出ている。
マルコは1セボンも払ってない。
それでもこれまではパーティの一員だったので、マルコも稼いだことになっていた。でも、パーティを追い出された今、本当に1セボンも払ってない。
マルコはその事に気づいているが、全精神力を振り絞ってその事実を無視し……切れずに、ちょっと躊躇った後、ベットに倒れ込んだ。
その後、くるんと仰向けになる。
そのお腹にネムがちょこんと降りる。
マルコはネムを両手でつかむと、顔の前に持ち上げる。
モコモコと白い毛は柔らかく、つぶらな瞳が可愛い。
じーっと見つめ合う1人と1匹。
「……」
「………」
「…………」
「……はぁ…」
ため息を吐いて、ネムをぽいっと放り投げる。
ネムは空中でパタパタとホバリングすると、お腹の上にちょこんと戻ってくる。
「コイツがもっと使えればなあ……」
たはぁ…っとこれまで何度言ったか分からない愚痴を吐く。
分かってるのか分かってないのか、ネムはメエメエ鳴いているだけだった。
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