第3話 500セボン

お昼過ぎ、マルコは手のひらを見てため息をついた。

周囲からも熱っぽいため息が漏れるが本人は気づいていない。


手のひらには、1枚の硬貨。

500セボン硬貨。

現在、マルコの全財産だった。


今朝、次の冒険クエストに必要なポーション類を買ってくるようにお使いを頼まれた。

メルに渡された3万セボンを持って買い物に行く途中、柄の悪いチンピラに絡まれ、残ったのがこれだけだった。


何もできないと言われても、落ち込んでてもお腹は空く。

ご飯を食べるにはお金がいる。


お店の看板にあるお得なランチメニューのお値段は480セボン。

これを食べてしまっては……いや、しかし、お腹が……。

フェノンが指摘した通り、マルコは見た目に反してエンゲル係数が高い。

そのマルコよりもフェノンの方が高いけど。


「あれ?マルコ?」

迷っているマルコに掛かる声がある。

マルコが声の方を見ると、仕立てのいい服を来た、似たような歳の少年たちだった。

「あ、やっぱマルコじゃん!」

「おお、マルコだ!」

「本物だ本物ー」

「久しぶり」

「何してんの?」

「飯?」

マルコはあっという間に囲まれてしまった。

彼らはフェアリースクールを無事卒業し、今はヒラケタ市を守る騎士団へと入隊を果たした元同級生エリートたちだった。

「……あぁ…久しぶり…」

そう返すのがマルコの精一杯だった。

「【ネムラゴ】のこと聞いてんぞ、すげぇよな」

「もうCランクだろ? 相当じゃねぇか」

「フェノンと、リナちゃんに、メルちゃんの3人は有名だぜ」

「……あぁ、みんなすごいよ、ホントに……」

「まぁ別の意味で一番有名なのはお前だけどな」

後ろで1人がつぶやく。落ち込んでいるマルコにその一言は届かなかったが。

「なぁ、今度合コンしようぜ! 可愛い子集めるからよ!」

「すげぇ美人に囲まれてるのは知ってるけどよ、たまには違うのもいいんじゃねえ?」

「連絡先教えてよ」

ゴソゴソと魔導携帯端末スマホを取り出す。

「あ、ああ」

マルコも取り出す。

周囲がやたらザワザワしているし、元同級生たちが後ろでガッツポーズしてるが、マルコには見えてない。

「飯まだなの? 俺らもなんだよ、一緒に行かね?」

連絡先を出そうとした時、1人がそう言う。

マルコが固まる。

500セボンしかないことを思い出したから。

「マルコ?」

「あ、ああ、ゴメン、ふフェノンに頼まれた事があったんだった! 俺、行くよっ」

ワタワタと出していたスマホをしまい、マルコは走り出した逃げ出した

「あ、おい! 連絡先だけで……あぁ!クソ!」

「マジかよぉ、もうちょいだったのに…」

「マルコ来るってなったら、センタン放送の女子アナでも引っ張って来れたのに……」

「いらん事言うなよ、おいぃ」

「いやいや、そんな変な話じゃなかっただろ!?」

マルコを逃がす原因となってしまった1人を、みんなが責める。

固唾を飲んで見守っていたギャラリーも、ブツブツ言いながら解散した。



◆◆◆◆◆◆



「遅いな?」

時計を見ながらフェノンがつぶやく。

「散歩に出ただけなのに昼を過ぎても帰って来ないとは……?」

形のいいあごに手を当てて考えるフェノン。

「散歩?」

リナが呆れた顔をする。

「大丈夫、お金がないから帰って来るしかない」

「いや、それ大丈夫って言うのかな?」

「うーむ……先に食べていいのだろうか? ご飯が要らない時は連絡するように言ってあるのだが……」

「電話も出ないし、メッセも既読にならない」

「まぁ追い出されたしね」

「そうか! 新しい仕事の面接中なのか!きっとそうだろう」

ウンウンとうなずくフェノン。

「ならば連絡できないのも仕方ないな。先に食べよう」

「そうしよう」

「いやー、それはないんじゃ…」

「すると、アレだな。今夜はお祝いご飯にした方がいいな」

「それがいい」

「やめたげよ? ねぇ? やめたげよ? メルは分かって言ってるわよね? ニヤニヤしないの!」

「でも、リナも見たくないの?」

メルが可愛らし微笑む。それは悪魔の微笑みだった。


「追い出されて、逃げ出して、プライドがあるから帰るに帰れないマルコ」

リナがゴクリとつばを飲む。

「でも、お金がないから自力ではどうにもならない。もちろん知らない人について行くような勇気はない」

「目に浮かぶわね」

「恥を忍んで帰って来るマルコ」

「………」

「すると、就職おめでとう!って幼馴染が満面の笑顔でパーティーを用意してる」

「…………」

「その時のマルコが見れるなら、私は悪魔にでもなれる」

「………今夜はパーティーね。準備しないと」


こうして、今夜のパーティーイタズラが決まった。

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