第9話 苦手な水着


 そんなこんなだったけど、気持ちの面では、わたしは他のモデルの子たちに絶対負けないことにこだわって仕事をした。撮影現場では決して笑顔を絶やさず、自分のチャームポイントを自覚して、しっかりアピールしようと意識した。数十倍の倍率を突破して「プロの」モデルになったんだという自負心もあった。落ち込みやすいとか、悔しいことばを掛けられたりとか、いろいろあった。意外と思われるかもしれないけれど、わたしはそれなりに頑張り屋なのだ。


 体力がなくても、忙しいのは性に合っていた。現場ではホントに努めて明るく過ごした。プロポーションの良い子でも暗い顔をしてたり、不機嫌でぞんざいな態度を取ると、スタッフにはマイナスなイメージをもたれていた。それって「プロ」としては失格だ。わたしは理想の体型じゃないから、せめてメンタルを鍛えていく必要があった。


 そんな毎日を過ごすうちに、学校での陰口をやり過ごすくらいの自信は付いた。全然気にしないとは言えないけれど、聞き流すくらいにはね。


  *  *  *


 そんな中、どうしても水着に着替えての撮影を強いられたことがあった。とにかくあの撮影のことはあまり思い出したくない、はっきり言って人生最悪の思い出の一つだけど、まぁもういいか。時効ってことで。


  *  *  *


 その撮影は有名メーカーの腕時計を夏の海辺を模したセットで撮るという宣伝のカットだった。本来なら他のプロポーションの良い子が務めるシーンだったのが、腹痛で直前に緊急降板。その時、同じスタジオ内で撮影していた、わたししか代わりがいなかったというのは、運がなかった。一部のスタッフにしか、わたしが水着NGモデルであることは伝わってなかったみたい。水着がNGなモデルなんてね、あまり聞いたことがないので。


「さぁ、時間がないから早くこれに着替えて」って、渡されたハイレグが大胆なビキニ。最初は訳がわからず頭が混乱した。そして、「水着にはなれませんから」とズルズルと抵抗していたら、ついに偉い人が目の前に現れて。わたしに北海道でのロケを約束し「頼むから、君しかいないから、スポンサーにも顔向けできないんだよ」と拝まれて。頭を何度も何度も下げられて。その間、周りのスタッフは大胆なビキニに代わる、サイズのもっと小さいわたしに着せられるワンピースを探していた。

 

 あれは4年間の専属モデル時代で、最初で最後の水着撮影。ほんとに恥ずかしかった記憶しかない。オレンジと黒が交互の縦じまのワンピースに着替えた瞬間、すっかり待たされて機嫌の悪いカメラマンが放ったスタッフへの一言は今でも耳に残っている。わわ


 「ほんとに子どもみてぇな子だね。どこをどう撮ったらいんだか。すげぇ骨張ってるようだから、大きなタオル持ってきて。あの子のカラダに巻かせて隠してな」「こんなガリガリモデル、俺撮るの、初めてだ・・・」


 これにはさすがに傷ついた…めちゃくちゃ落ち込んだ…


 わたしは読者からの人気があるモデルじゃなかったことは事実なのです。

 もともとわたしは読者モデルに近いキャラとして起用されていた。スタイリッシュでセレブ風なモデルなんかにはなれなかったし、事務所が派手な売り出しもしなかった。表紙に5回選ばれたのは多い方だったけれど、それでファンが増えたということはなく、専属モデル期間は終わったのでした。

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フラミンゴ 屋瀬頼三 @gariskiee036

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