第8話 マル秘の着こなし?
「美和ちゃん、スリーサイズをどう書こう?」
エスカレーター式のため、すんなりと大学に進学して間もなく、所属事務所からファッション誌Cの専属モデルのオーディションがあると知らされた。ぜひ受けたいと思ったけれど、受かるとは思っていなかった。
当時の応募書類に、逆サバ読みした体重やスリーサイズを書いて出したことは覚えてる。書類選考に通って、編集部との面接のときはかなり緊張した。書類に書いたサイズとかの”ウソ”がばれちゃうんじゃないかと心配になった。
ウソがなるべくバレないように、面接の服装にはかなり気を遣った。当時の流行りは肩パットだったので、肩幅をしっかりさせ、上半身をなるべく大きく見せた。それと、肌の露出は控え目にした。母が用意してくれた上品なアクセサリーで手首の細さをカムフラージュ。
面接では「だいぶ細そうだけど、スタミナには自信ある? モデルの撮影は早朝だったり、深夜まで撮影が終わらなかったり、結構キツいけど。大学の授業との掛け持ちもあるし、体力勝負みたいなところはあるよ」と聞かれたりもした。
そこは、わたしなりに、努めて明るく、そして前向きに受け答えをした。でも、「受かった」と連絡をもらったときにはすごく驚いてしまった。雑誌の専属モデルなんて、なかなか普通にはできない経験だ。わたしは夢に一歩近づいた気がしたのだった。
ファッション誌Cは月刊誌だったから、撮影は、ひと気のない時間帯に、公園や広場などで行われた。大学生活との両立は、確かに大変で、ひたすら頑張った。それに、モデルとして名前や顔が売れてくると、それなりのノイズもあった。
代々木や日比谷公園などで撮影していると、同世代の子たちが遠巻きに見に来ていて、呟きが聞こえたりもした。
「へぇ、あれがこの前の表紙の子?」
「顔小っちゃ」
「めちゃ細っいわ。細すぎやないの?」
ファッション誌Cの表紙に4ヶ月連続で選ばれたのもこの頃だった。だから雑誌読者に、次第にわたしの顔と名前が知られるようになっていった時期だと思う。そこで、服の着こなしがより重要になった。
あるスタッフから、反省会のさらに後に一人だけ呼び出された日。何か失敗でもやらかしたかとビクビクしていたら、そうではなかったけど、ビミョウな感じだった。
「斎藤さんは、うちのモデルの中で一番細いから、服が立つように、ポージングとメイク(※下着の補正のこと)をもっと工夫して。脚は必ず組んでください。じゃないと、脚の間から向こうが透けてしまうんで」というアドバイス?だった。
他にも、雑誌のインタビューで、「着こなしの秘けつ」を訊かれたときは、正直に答えてしまって今となっては恥ずかしいやら、懐かしいやら。着こなしで悩みはある程度解決できるという話をした覚えがある。
「私の悩みはやせていること。まわりの友人からは「うらやましい」とか言われるんだけど、どうしても貧弱に見えてしまうのでモデルとしてマイナスイメージ。それを解消するためのマル秘テクニックは肩パット。肩幅がしっかりすると、逆三角形のシルエットが強調されて、全体のシルエットがグーンとよくなるんです」
この答え、読者には全然参考にならなかっただろうなぁ(苦笑)。
もうちょっと役立つことを言えれば良かったけれど、当時のわたしにとってはそれが事実としての「着こなしテクニック」だったのだ。
今振り返ってみても、よくあんな体型でモデルが務まったなぁって思う。顔が小さくて、首が細く長かったのは「モデルとしては願ってもない、羨ましいこと」と、スタッフから褒められたのは嬉しかったけど。
しかし、二の腕は棒のようだし、ましてや上半身には骨が浮き出て、ガリガリ。脚だって細過ぎる。「なんでも着こなせる」なんていうのはウソ。手首から手の甲にかけては、若いのにおばあちゃんのように血管がたくさん浮いてるし… 汗
メーカーから支給される既製服のサイズがわたしには全然合わなくて、スタイリストの皆さんにはいつもかなりの迷惑を掛けてしまった。
モデルの「美容体重」という特別な物差しがあることを知ってるかしら?BMIで言うと、それは18前後。それって、標準からだと、立派な「痩せ」に分類されるんだけど、わたしの身長からだとそれで52kg。ちなみにいわゆる標準体重は63kgとなる。
つまり、あの頃のわたしの体重は、標準より20kg以上、美容体重より10kg以上も軽いってことになるの。BMIが14なんて、細いのが当たり前のモデルとしてもたぶん
ありえないほど、異次元に低い数値。
だから、「願ってもない理想の体型」なんかじゃ絶対になかったのです。
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