第7話 宇宙人ボディ!


「美和ちゃんとのツー・ショットだと、どうしても私が太ってみられちゃうから損よね」 


 と、ゆみちゃんはよく笑っていたそうだ。それくらい、わたしは高校時代に痩せてしまった……。


 中学時代にティーンモデルにスカウトされた後、わたしは背ばかり伸びて体重が増えなかった。健康診断の記録からざっと計算してみると、小学6年から中学2年までの3年間に、身長は約7cm、体重は4kg増えている。それに対し、モデルにスカウトされたあとの4年間は、さらに背が9cmも伸びたのに、体重は逆に少し減ってしまう。胸囲の発達は僅かに1cm。わたしは太りたい一心なのに、一向に太れなかった。そして見た目がどんどん「骨と皮のような身体」になる、という悲しい現実……。わたしのコンプレックスはさらに大きくなっていった。


 思い切って、わたしの実際の検診記録を公開してみる。びっくりデータだけどね。ウソついても仕方ないから…


<検診記録(中1~高3)>


中1 身長154.3cm 体重36.3kg 胸囲64.3cm BMI 15.2

中2 身長158.5cm 体重38.9kg 胸囲66.5cm BMI 15.5

中3 身長162.6cm 体重41.7kg 胸囲69.8cm BMI 16.0

高1 身長165.3cm 体重39.5kg 胸囲70.0cm BMI 14.4

高2 身長168.7cm 体重41.2kg 胸囲71.5cm BMI 14.5

高3 身長170.5cm 体重40.8kg 胸囲71.0cm BMI 14.0


 全国平均では、中3から高3までの女子は、身長が約2㎝伸び、体重は3kg増えていくのだから、周りの子との体格差がどんどん広がっていくのは当たり前だった。あの頃はまだBMIなんてものはなかったけど、計算してみたら、さすがに少なすぎる(苦笑)


 高校のクラスの中で、そして学年全体でも最も痩せた体型のわたしは、健康的に育っていく同級生の中で間違いなく目立ち、そして、浮いていた(あばら骨もね……)。


 だから、モデルとしては”異例の”太る努力を必死にいろいろ試してみた。母親にも相談したし、友人から「こうすれば胸は育つよ」と聞いたことは、ひと通りやってみた。


 例えば、寝る前の腕立て伏せ。腕立て伏せは、胸を大きくするには一番だと言われていた。でも全然続かない。腕に力が入らないから、すぐ疲れてしまう。お風呂でこっそり胸マッサージもやった。屈辱感を味わいながら、地道にモミモミやってたなぁ。だけど、成長は実感できなかった。


 そこで、リズム感を活かせて体力アップにもつながると聞き、ジャズダンスに通った。ダンスを磨いてリズム感を養い、プロのモデルとしての姿勢づくりや将来の夢――舞台女優――に近づくという一石二鳥の作戦。でも、週一程度の練習だったので、リズム感はともかく体力アップにならなかった。


 あとは、何とかしてたくさん食べなければと思った。「私、もっとダイエットしなきゃいけないんだけど」って思う子は、好き嫌いなくよく食べる子でもあると思う。それに比べ、お腹を壊したりアレルギーがあるわたしは、食べられるものが少ない。


 牛乳や卵、豚肉がダメなので、タンパク質が不足し、ごはんのお代わりさえも出来なかったわたし。「よく食べる」ことは、活力や生命力の保持につながるって保健体育の先生は言ってたっけ。なのにみんなが育ち盛り、食べ盛りの時期に、わたしだけ真逆な「マイナス成長」。


 そして、ときどき「顔色が悪い」とも注意された。もともと色白で、肌が弱くて、日焼けなんかすると真っ赤に腫れあがってしまう。そして、アレルギーによる湿疹ができやすい体質。体調が悪いと、すぐに肌に現れてしまうというわけ。だからメイクの時の化粧品にはとても気を遣った。においの強いものは使わないように心がけたし、ファンデーションを控え目に、その分口紅は派手めにという具合。


「どうして私だけずっと、こんなに未発達のままなんだろう? ホントに、お医者さんが言うように、人よりホルモンの量が少し足りないだけなのかしら?」


 そう悩みつつも、いつかは人並みのカラダつきになり、普通に水着を着て海にも遊びに行けるんだと、まだ信じて疑わなかったわたし。ただ、いよいよ高校生活も後半に差し掛かると、友達との体格のあまりの違いに悲しさが募り、さすがに焦りを感じざるを得なかった。


 このあと大学に進学し、もっとモデルの仕事が忙しくなったわたし。一見、周りからは順風満帆に見えたかと思う。でもわたしは、自分の体型のことで深く、辛く悩んでいた。


 この悩みは本当に、共感してもらうのは難しいと思う。でも太れない悩みについては、伝わらなくてもいい。ただ、「世の中には見えないところに苦しさがある」ってことだけは、なんとか伝わって欲しいと思っています。

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