第49話
大族長になったからといって何かが大きく変わるわけではなく、僕らはそのまま集落へと戻っていた。
森の移動も終盤に入り、既にあたりは見慣れた風景になっている。
「なんだかずいぶん長いこと帰ってない気がするよねぇ」
「ですね、思っていたよりかかってしまいました」
食料を工面したり、人狼を狩ったり、最後には大族長になったりと、想像していないようなイベントが大量に起こったけれど……最終的には誰一人欠けることなく切り抜けることができてよかった。
期間は合わせて一月弱くらいといったところだろうか。
最初に植えた野菜は、もう収穫されているかもしれない。
「長く、感じる」
「どういう意味かな?」
「寂しくて、離れている期間が思ったより長かったんだと思います」
こくりと頷くカーリャ。
彼女が乗っているシルバーファングも、なぜか同じタイミングで頭を下げていた。
仲良しだね、君達。
「おっ、見えてきたよ」
懐かしさすら感じる、僕らの集落が見えてきた。
「ああ、帰ってきたんだ……」
自分の口から出てきた言葉の意味を、少しして理解する。
そうか、ここはもう……僕の帰る場所になってたんだね。
ジルに乗ったまま、中に入る。
警戒をしていたシルバーファング達に頭を下げてもらいながら進むと、すぐに畑が見えてきた。
そこにいるオリヴィアは、畑に新しい種を蒔いている最中だった。
あー、残念。どうやら収穫には間に合わなかったみたいだ。
「え……アレスさんっ!」
足音に顔を上げたオリヴィアが、こちらを見て驚いた顔をしている。
ジルから下りて軽く頭を撫でてから、彼女の方に近付いていった。
「アレスさん……アレスさんですよね?」
「はい、アレスさんですよ」
「本当にアレスさんです……」
傍から見ると頭の悪そうなやりとりをしながら、僕らは互いの再会を喜びあう。
こちらにやってきたオリヴィアは、自分の手が泥に汚れているのも忘れて、僕に抱きついてきた。
「ちょ……っ」
少しためらってから、僕も彼女のことを抱きしめる。
どうやらそれで合っていたらしく、横にいるカーリャがこくこくと小さく頷いていた。
「アレスさん、お帰りなさい! もう帰ってこないかと思いました!」
「あー……うん、それはごめんね」
本当ならカーリャやウィチタのどちらかを集落に戻すということも考えたのだけど、彼女達に単身で森に行かせてもしものことがあると思うとできなかったのだ。
マリーにもやってもらうことがあったし。
後から考えるとビリーを呼び寄せて手紙をくくりつけて皆のところに戻ってもらえば、連絡を取ることもできたんだよね。
従魔のビリー達がいるから大丈夫かと思ってたんだけど……たしかに一月近く帰ってこないと流石に心配になるよね、これは反省だ。
どうやらかなり不安にさせてしまったみたいなので、二度と同じようなことが起きないよう、次からは連絡手段をしっかりと用意しておくことにしよう。
「ただいま、ちゃんとアレスさんを連れて来たわよ」
「うん、ありがとうウィチタ」
「私も」
「カーリャもありがとうね」
皆で久しぶりの再会を喜び合う。
畑の様子を見ればわかるように既に野菜の収穫は終えており、マックスが出していた栄養たっぷりとの土を馴染ませて、第二陣の種植えをするところだったようだ。
「そうです、美味しいトマトが摂れたんですよ。採れたてですので、今のうちに……」
話をしていると、ドタドタと足音が聞こえてくる。
僕らは顔を見合わせて、苦笑する。
するとその元凶であるエイラちゃんが、ものすごい勢いでこちらに駆けてきた。
「あー、やっぱり――アレスさん達が帰って来てる! おかえりなさい!!」
「わっと……ただいま、エイラちゃん」
僕の胸に飛び込んできたエイラちゃんを抱き留める。
いくつもの足音に気付き顔を上げれば、子供達と一緒にイリアさん達もこちらにやってきているのが見えた。
こうして僕らは無事に集落へと戻ってくることができた。
子供達やエイラちゃんにもみくちゃにされ帰還を喜ばれる度に、帰ってきたんだとなんだか嬉しい気持ちになってくるのだった。
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