第41話
「チチッ!」
キンバリーさんと今後についての話し合いをしていると、マリーが来てくれた。
「あ、新しい聖獣様……本当に……?」
キンバリーさんはというと、マリーを見て呆然としている。
さっきマリーが来るって話はしたはずなんだけど……どうしてそんなに驚いてるんだろうか。
「チッ」
マリーは僕の右手に乗ると、パシッと軽く翼をはためかせた。
その目は相変わらずキラキラと輝いているけれど、どうやら無理を押してかなり急いでやってきたらしく、疲れているのが一目でわかってしまう。
「マリー、苦労かけちゃってごめんね」
「チュンッ」
マリーに肩を軽くついばまれる。
しょうがない子ね、とこちらをたしなめているようだった。
ありがとうと頭を軽く撫でてやると、気持ちよさそうな声を出しながら目を細めてくれる。
事前に用意していた干し肉を取り出すと、美味しそうに食べ始めた。
マリーはこう見えて雑食だ。
普通のスズメと同じく麦や虫から肉に魚までなんでもだ。
ちなみにジルも同様で、彼は狼だけど野草や葉野菜なんかも普通に食べる。
「それじゃあとりあえずの話も終わりましたし、ここから先は実際に判断を下してから進めていきましょうか」
「は、はい……」
区切るにはちょうどいいタイミングだったので、話し合いを終える。
キンバリーさんは新たに現れたマリーに興味津々な様子だった。
「綺麗ですね……ジル様を見た時にも思いましたが、なんというか神々しいオーラがあるといいますか……」
「チチッ」
褒められていることはわかっているのか、ドヤ顔をし始めるマリー。
上機嫌だからか、軽く飛び跳ねてステップまで踏んでいる。
マリーはわりと人見知りをする子なんだけど、マーナルムの子供達と接するうちに耐性をつけたのか、こうして見知らぬ人相手でも普通にコミュニケーションが取れるようになっている。
微笑ましい光景に、こちらの頬までゆるんできてしまう。
僕はマリーをしっかりと休ませてから、再び彼女を空へと羽ばたかせるのだった。
感覚同調を使い、マリーと視覚を共有する。
マリーは周囲の光景がめまぐるしく変わるほどの高速で、森の上をくるくると旋回していく。
今は人狼と遭遇することも考えて、ジルやウィチタ達には控えてもらっている。
当然ながらもしもの事があった場合すぐに出動することも考えているように、いつでも出れるようにという連絡はしている。
森の中はどうしても視界が悪いため、高空からではそこまで詳細に観察することはできない。
更に言うとマリーやビリーのような鳥は空中で止まって周囲を観察することができないため、空から俯瞰的に物事を捉える必要がある。
森のどこに人狼がいるかわからない以上、木に止まって確認していくのは怖い。
なのでマリーには迷惑をかけてしまうけど、多少効率が悪くともこのやり方で行くしかない。
あとで彼女をねぎらうために、何か甘いものでも用意しておこうかな。
マリーに空を飛んでもらいながら、人狼が出たというあたりの森の周辺を調査していく。
やはり一番最初に感じたのは、以前二つの集落の境目でも感じた生物の反応の少なさだ。
人狼が魔物達に襲いかかっているからだろう。そこには小動物を除くと、ほとんど生き物の気配が感じられなかった。
それならと次はその東西南北を確認していく。
どうやら人狼は更に西へ向かっているようで、それ以外の三方に明らかに魔物の数が多い。
恐らく人狼を恐れた魔物達が東の方へ逃げてきたというのが、僕らの暮らしていた領域にまで魔物が増えていた原因なのだろう。
既に大分マズい状態だ。
恐らくこのままでは、そう遠くないうちに森の植生が完全に壊れてしまう。
ある程度大きな魔物がいなければ小動物が繁殖しすぎてしまい、結果として虫が消えて森自体がなくあんってしまうだろう。
(ん、あれは……)
注意深く、ゆっくりと進んでいること数時間。
途中適度に休憩を挟みながら確認を続けていくと、ようやくお目当ての人狼らしき魔物の姿を確認することができた。
感覚同調のギアを上げ、視覚だけでなく聴覚まで同調させる。
情報処理しなければいけない量がグッと増え頭が痛くなってくるが、そんなことは言ってられない。
「グルルゥ……」
ぐっちゃぐっちゃと巨大な犀の魔物を食べているのは、事前に教えられていた通り人型の狼だった。
あの犀の魔物――アサルトライノの体長は3メートルを超えているから、人狼の身長はおよそ2メートル前後といったところだろうか。
Cランクの魔物であるアサルトライノを簡単に倒していることから考えても、最低でもBランク程度の力は持っていそうだ。
敵影を発見したので、つかず離れずの距離を維持しながら観察を続ける。
その戦い方や使用する魔法、必殺技など見れるところは全て見てから、マリーを帰還させる。
実力はBランクの中で上位といったところだろうけど……皆で力を合わせれば問題なく倒すことができるだろう。
こんな魔物にこれ以上森をめちゃくちゃにされるわけにはいかない。
さっさと倒して皆のところへ帰るとしよう。
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