第42話


 幸い、人狼は単体行動をしていて、引き連れている部下も存在しない。

 それなら下手に人員を増やしても意味がないため、精鋭メンバーで挑むことにした。


 メンバーの内訳は僕・ジル・マリー・ウール・マックス・ウィチタ・カーリャ。

 

 今回はグルド君達『疾風のたてがみ』の皆と『猛る牙』の戦士達には、集落の防衛に回ってもらうことにした。


 人狼は鼻が聞くし、以前狩った獲物の場所についてなんかは記憶しているはずだ。

 取り逃がした場合、その矛先が『猛る牙』の集落へ向かうのは十分に考えられる。


「――とまぁ、こんな感じで行こうと思う」


 事前にきっちりと作戦を立て、これなら人狼をしっかり完封できるだろうという策を説明する。

 実行部隊になるウィチタ達の指摘で細かい部分の動きを修正してから、戦いの準備を整えるために物資を集めていく。


 森の中で採取をして必要なものを集めたら、そのまま出発だ。

 諸々の仕込みをしてから戻ってくると、時刻はおよそ午後二時頃。


 これなら今日中に終わらせられそうだ。

 少し休憩をしたら人狼のところへ向かい、戦いにいくことにしよう。


「任せてください、絶対に役に立ってみせます!」


 ふんすと鼻息荒く拳を握っているウィチタ。

 彼女はこういう時頑張りすぎるきらいがあるので、もう少し気を抜いてもらいたいんだけど……と思っていると、突然彼女の身体がガクッと崩れた。


「――っとおっ!?」


「力みすぎ」


 カーリャがウィチタに膝かっくんを仕掛けたのだ。

 ウィチタは怒っているが、さっきまでの鬼気迫る様子は既にない。


 不思議ちゃんと思わせてこういう時はしっかりと他の子のケアまでできる。

 僕はグルド君がカーリャを好きになった理由が、ほんのちょっとわかった気がした。

 

「よし、それじゃあ行こうか。誰一人として欠けないよう気をつけよう。負けても次があるけど、死んだら次はないからね」


 僕の言葉に、全員が頷く。

 こうして僕らは人狼を討伐するために、集落を後にするのだった。





 今回僕は戦闘の主要メンバーではない。

 僕の役目は以前『ラスティソード』に居た頃と同じく、索敵と牽制だ。


 けれどどうしてだろう、同じ事をしているはずなのに、全然違う。

 今の僕の心は弾んでいて、与えられた役目を何一つ嫌だと感じていない。


 この原因はどこにあるのだろう。

 やっぱり……皆が僕を認めてくれているから、だろうな。


 それなら僕は、自分の居場所を守るために戦おう。

 たとえ僕一人では非力だとしても……僕は一人じゃない。


 従魔の皆が、ウィチタ達マーナルムの皆が力を貸してくる。

 だからもう……怖くもつらくもない。


 マリーと視覚同調をしながら、人狼を索敵していく。

 どうやら既にかなりの距離を移動しているらしい。

 足はかなり速いみたいだな……。


 指示を出し、マリーの高度を下げさせる。


「ガルルッッ!」


 人狼は既に獲物に完全に狙いを定めていて、マリーに気付いた様子はない。

 ここからは聴覚も同調させ、より詳細に情報を集めさせてもらおう。


「チチッ!」


 マリーが溜めに溜めて、十本の水の槍を放つ。

 相手の移動力を加味して、選択したのは範囲攻撃だ。


「ギャウッ!?」


 マリーの水槍が、無防備な人狼の脇腹に刺さる。

 出血はしてるけど……浅いな。


 マリーの魔法でこれしか傷つかないとなると、ある程度魔法に対する耐性も高そうだ。


「アオオオオオオオオンッッ!!」


 狩りの邪魔をされたとわかった人狼が、完全にマリーにターゲットを変える。

 マリーは追撃をすることなく、そのまま木々の間を縫うように飛行し始めた。


 高度を攻撃を食らわない位置まで上げてから、後ろを確認する。

 人狼は完全に四足歩行の体勢になり、森の中を駆けていた。

 攻撃のために高さが足りないとわかっているからか、木々を垂直に上るとそのまま樹上の枝を飛ぶ形で移動をする。


 太い枝が軋むほどに力を込めてジャンプを続けることで、その速度は障害物を無視して空を飛ぶマリーに匹敵するほどに素早い。


「チチッ」


 相手を引きつけながら、つかず離れずの距離と高度を維持し、目的の場所へと向かっていく。

 すると事前の打ち合わせ通りに、二人がスタンバイしてくれていた。


「ここから先は……」


「相手になる」


 シルバーファングに乗ったウィチタとカーリャが、人狼の前に並んで立つ。

 二人はマチェーテを構え――牙を剥いてこちらを威嚇する人狼と、真っ向から激突した。

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