第36話


 魔物を大量に狩っては『疾風のたてがみ』の獣人達に解体と運搬をさせ、とにかく大量に食肉を運び込んでいく。


 最初のうちは魔物の襲撃はないかとおっかなびっくりだった彼らも、何度も繰り返していくうちに慣れたようで、今ではウィチタ達と一緒に魔物達の足止めまで担当してくれるようになった。


 そして仲良くなれたのは、狩りをしている男性陣だけではない。

 『疾風のたてがみ』の人達の態度は、老若男女を問わずどんどん親しげなものになっていった。


 元からある程度好意的だったのは間違いないけれど、彼らはどちらかといえば聖獣に対して敬意を向けているだけで、僕やウィチタに対してはあまり良い印象を抱いていなかった。


 マーナルムは戦いから逃げた臆病者で、それを引き連れてやってきた僕は臆病者の親玉、くらいに思われていたみたいだからね。


 ただそれらの悪感情も、ここ数日の僕らの頑張りのおかげで完全に払拭できたといっていい。


「ありがとうございます、アレス様」


「いえいえ、困っている人達を助けるのは当然のことですから」


「アレス様は我らの救世主ですじゃ」


 最近では狩りを目の当たりにする戦士達だけじゃなく、帰りを待つ女性陣や老人達にもよく声をかけられる。

 おかげでこの氏族の人とは、一通り会話することができた。


 初めて集落にやってきた時には、獣人の人達はそこまで焦っているようには見えなかったけれど、それでも皆心のどこかでこのままではマズいという認識があったらしい。


 話を聞いてみると食料や交易の材料となる魔物の数がここ最近は減ってきており、生活は徐々に徐々に貧しくなっていたようだ。


 大量に食料を持ってきてくれる僕らに対しての態度は目に見えて軟化しており、ここ最近は話をするだけで頭を下げられるようなことも増えてきている。


 今では大量に仕留めた群れの処理をお願いするための指笛を鳴らせばとてつもない速度で、ぶんぶんと尻尾を振りながらこちらにやってくるほどだ。


 ちょっと信頼が篤すぎるような気がしなくもないけど、それもまた獣人の特性の一つということらしい。


「我らは外と内の壁が非常に大きい。だからこそ一度仲間になった者に対しては、非常に優しくなるのです」


「なるほどぉ……」


 獣人は僕ら純粋な人種と比べると、仲間意識が非常に強い。

 ここ最近の僕らへの態度が妙に優しくなった気がするのは、僕らのことを仲間として認めてくれたから、ということのようだ。


 仲がこじれて最悪逃げることまで考えていたけれど、トントン拍子に上手くいっている。

 本当にありがたい話だ。


 僕らは高空偵察を使って周辺の魔物を根こそぎ刈り尽くす勢いで魔物を狩っているため、肉はそう簡単に消費しきれず、更には保存食にするにも手が足りないほど大量に用意できるようになった。


 だが何一つ問題はない。

 それは――マリーの水魔法の習熟度が上がり、彼女が新たな魔法を使えるようになったおかげだった。

 マリーのウォーターエッジの威力が妙に上がっている気がしたんだけど、あれは気のせいじゃなかったのである。


 その魔法とは――アイスウォール。

 今まではちょっとずつしか氷が出せなかったんだけど、マリーがとうとう、砕けば部屋中を満たせるような巨大な氷を出すことができるようになったのだ。


 氷の温度もある程度自由に変えられるようで、触れるだけで手が霜焼けするほどの超がつくほどに冷たい氷まで出すことができるようになっていた。


 マックスに蔵を作ってもらい、そこをマリーの出す氷で冷やす。

 中をキンキンに冷やしてしっかりと密閉すれば、そう簡単に温度の下がることのない食料貯蔵庫のできあがりだ。


 腐らせる心配がなくなったことで、僕らは自嘲することなく狩りを繰り返すことができた。 おかげで、向こう半年くらいは食いつなげそうなだけの食料を集めることに成功。


 当面の食料がなんとかなったので、これで心置きなく『猛る牙』の下へ向かうことができる。

 もちろんあくまで全てが終わったらオリヴィアを連れて来て、根本的な食料問題の解決にに乗り出そうと思う。


 食料の保存のためにはマリーの力が必要なので、彼女には『疾風のたてがみ』の集落に留まってもらうことにした。

 残るメンバーで『猛る牙』の下へ向かおう。


「というわけで、明日にでも向かおうと思います」


 そう告げると、ギルディアさんがめちゃくちゃ慌て始めた。


「これだけのことをしてもらって何も返さないわけにはいきません!」


 夜に小規模ながら皆で祭りをしたいという彼の願いを、僕達は受けることにする。


 今後のことも考えたら、マーナルムと『疾風のたてがみ』の間のわだかまりは完全に解いておいた方がいい。

 なにせ皆の態度が柔らかくなったとはいえ、未だ次期村長のグルド君なんかは未だ僕達に頑なな態度を取り続けているからね。


 いきなり余所者に力を誇示されるのは気分は良くないのかもしれないけど……今後も長い付き合いをすることになるんなら、彼ともしっかり仲良くなっておく必要がある。

 なので僕はこの祭りを通じて彼と仲良くなろうと、決意を固めるのだった。

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