第35話
まず最初になんとかしなければいけないのは、ギルディアさんの率いる『疾風のたてがみ』の面々だ。
まず彼らの抱えている食料問題を解決するため、僕らは久しぶりに本気を出して狩りをすることにした。
以前はとにかく安全第一で、誰も怪我をしないように無理をせずに戦ってきたけれど、今は回復魔法を使うことができるウールがいる。
なので今までであれば負傷しないよう戦闘を避けてきた魔物の群れを相手にしても、問題なく立ち回ることができるはずだ。
というわけで僕らは手っ取り早く食料を確保すべく、発見した群れへと挑むことにした。
ジルが足音を慣らすことなく、群れの最後尾へと近付いていく。
その姿はさながら森の暗殺者、飛び上がるその瞬間まで、魔物達はジルの存在に気付かなかった。
「がるるっっ!!」
今回僕らが狙うことにしたのは、刃物のように鋭い二本の角を持つ、ブレードディアーという魔物だ。
ジルはその最後部に居た一匹の喉元に噛みつき、見事に一撃で仕留めてみせる。
襲撃を受けたとわかったブレードディアー達がそのまま森の奥へと遁走しようとする。
だが当然ながら、一匹も逃がすつもりはない。
「ぴぴっ!」
マリーが放つ水の刃が、逃げようとする鹿を背後から斬り伏せた。
彼女の放つウォーターエッジの切れ味は鋭く、ブレードディアーは水刃を食らうと真っ二つになっていく。
なんだか最近、マリーも前より強くなってる気がするんだよね。
ウォーターエッジの威力、こんな高かったっけ……?
「はああああっっ!!」
「しっ!」
マリーの魔法を恐れて逃げ出したブレードディアー達の向かう場所には、既にウィチタとカーリャが待機して待ち構えている。
彼女達はブレードディアーを、急所を狙って仕留めていく。
逃げ出そうとする個体は彼女達のシルバーファングが牽制を行うことで逃げることができなくなっており、前後から攻め立てられるブレードディアー達は戦うことを余儀なくされることになる。
「きゅきゅっ!」
誰かが傷を終えば、ウールが回復魔法を使ってそれを癒やしてみせる。
僕はウールの方に向かおうとするブレードディアーを牽制しながら時間を稼ぐことに徹した。
マリーとジルの殲滅力は圧倒的で、果敢に攻め立てることであっという間にブレードディアーの群れを仕留めきることに成功する。
「……十五、十六匹か。これだけいればしばらくの間は大丈夫だよね」
「はい、それに角を持っていけば、いい手土産になると思います。話をするいいきっかけになるかと」
ブレードディアーは魔物は不思議な習性を持っていて、己の強さのシンボルとして雄同士が互いに頭突きをして角をより凶悪なものに削り合うのだ。
その鋭利な二本の角は、折ってから持ち手を加工すればそのまま刃物として使うことができる。
「魔物の素材を持ち込めば、僕らの実力を知ってもらうこともできるだろうし、魔物の肉で『疾風のたてがみ』の皆の問題も解決できる。一石二鳥とはこのことだね」
僕らが指笛を鳴らすと、ギルディアさんが率いる『疾風のたてがみ』の戦士達がやってくる。
「こ、これは……」
「流石聖獣様と聖獣使い様だ……」
「俺は今、夢でも見ているのか……?」
ブレードディアーは冒険者ランクでいうとCに相当する魔物だ。
たしかに
「これだけあれば、しばらくはなんとかなりそう?」
「は、はいっ! 燻製肉や干し肉にすれば、大分余裕ができます」
「よし、それじゃあ解体はお願いね。僕達は別の群れを狙いに行くから」
「「「はいっ!」」」
まずは『疾風のたてがみ』の皆がしばらく食べていけるだけの食料を確保しなくちゃね。
僕らはまた別の魔物の群れを狙っては皆に解体と運搬をしてもらうということを何度か続けることで、日暮れまでに簡単には食べきれないほどの大量の食肉を手に入れるのだった――。
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