第37話


 完全に日が落ち今日のやることが終わったところで、祭りが始まった。

 ギルディアさんがどこからか取り出してきたお酒を振るまい始めたので、当初想定した以上に皆がはしゃいでいる。


「アレス様と聖獣様達に……乾杯!」


「「乾杯ッ!」」


 こちらに杯を掲げる人もいれば、ありがたそうに拝んでくる人達もいた。

 苦笑しながら僕も彼らに合わせて杯を掲げれば、皆が嬉しそうな顔をしながら歓声を上げる。


「ん、あれは……」


 ちらっと視界の端に映ったのは、指をくわえながらこちらを……というか僕の頭の上のあたりを見つめている子供達だった。

 もこもこな不思議生物であるウールのことが気になっているらしい。


「きゅっ!」


 ウールの方はと思い彼の方を見てみると、祭りの熱に浮かされて上機嫌になっていた。

 乗り気そうなので、問題はなさそうだ。


「ほら、おいで」


 ちょいちょいっと手招きをすると、やはり気になっていたのか、恐る恐る子供達が近付いてくる。


 頭の上に乗っているウールを掴み、そのまま子供達に渡してあげる。


「ウールっていうんだ、仲良くしてあげてね」


「きゅきゅんっ!」


 ウールのかわいさに目をキラキラと輝かせながらやってくる子供達。

 その親御さんとおぼしきお母様方は少しはらはらとしながらこちらを見ているけれど、集落にやってきてからの僕達のことを見ているからか、何も言わずに見守ってくれていた。


「わぁ……」


「ぼ、僕も、もこもこっ!」


 ウールを抱っこしながら、ギュッと抱きしめる女の子。

 それを見た他の子達も、順番にウールに触れて抱きしめていく。

 ウールの方はちやほやされて気分が悪くないからか、楽しそうに鳴き声を上げていた。


「おお聖獣様、結構いける口ですな」


「ばふ」


 反対側ではジルが注がれたお酒をがぶがぶと飲んでいた。

 彼はこう見えて、僕よりお酒が強いのだ。


 ちなみにマリーはその近くで、小さな器に注がれたお酒をつついて舐めるように飲んでいる。

 マックスは疲れているからか、身体を渦巻き状に巻いてゆっくりしているようだった。


 皆めいめいに、お祭りを楽しんでいる。

 集落の人達に渡される食事や酒を楽しみながら歩いていくと、ようやくお目当ての人物を見つける。

 グルド君は皆から少し離れた場所で、一人ちびちびとお酒を飲んでいた。


「楽しんでるかい?」


「アレスさん……はい、ぼちぼちと」


 グルド君ははしゃいでいる集落の人達を、ジッと見つめていた。

 彼は色々な感情が混ざった複雑な顔をしながら、まだ温かい肉串をほおぼる。


「はふっ、はふっ……一つ、聞いてもいいですか?」


「もちろん」


「アレスさんは……カーリャさんのこと、どう思ってますか?」


「――えっ?」


 何を聞かれるのかいくつか想定はしていたけど、予想外のところから球が飛んできた。

 僕が、カーリャのことを?


 たしかによく一緒に釣りをしにいったりするから仲はいいと思うけど……普通に仲間だと思ってるよ。

 よくわからないところもあるけど、過ごす時間が長くなってきたからか最近は表情の変化もわかるようになってきたし。


 そんな感じのことをしどろもどろに伝えると、グルド君が一点を見つめる。

 その視線の先には、火に照らされてオレンジ色に光っているカーリャの姿があった。


「実は俺……ボコボコに殴られてから、カーリャさんのこと、妙に気になっちゃって……なんか上手いこと自分で消化できなくて、そのせいでアレスさんにもつっけんどんになっちゃってすみません」


 流石はお酒の力というべきか、つんつんしていたグルド君の本音が聞けてしまった。

 なるほど、思春期ってやつなのかもしれない。


「実は昨日告白したんですけど……フラれました」


「ええっ!?」


「だからこれは、やけ酒です」


 そう言うとグルド君は酒をぐいっと一息に飲み干した。


 怒濤の急展開である。

 僕が知らないところで、そんなことになっていたとは……。


 なんと答えるべきかわからなかったので、僕も肉を食べ酒を飲むことにした。

 カーリャはいつもと変わらぬ様子でウィチタと話をしている。


「好きな人がいるって、言われたんです」


「へ、へぇ……」


「それって、アレスさんのことですよね?」


「へ……ええええええっっ!?」

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