第30話
【side バリス】
俺達『ラスティソード』の評判は落ちる一方だった。
あのポイズンスネークの依頼に失敗したことで違約金を払う羽目になり。
そのまま寝ている間に装備を全て盗まれたせいで、俺は完全な無一文になってしまった。
リアが持ってくれていたパーティー運営資金があったおかげで借金をして装備を整える必要がなくなったのは助かったが……むしろ借金でもして、身なりを整えた方がいいんじゃないかと思えるほどに、現状は悲惨である。
「これが今回のゴアリザードの討伐部位だ」
「……はい、たしかに確認致しました」
手渡された革袋を、中身を確認することもなくポケットの中に入れる。
金勘定は苦手なので、後で全部リアに渡すことになっている。
ちなみにここ最近は、あまりの金欠っぷりに酒を買うことは禁止されている。
冒険者なのにまともに酒が買えないのなんて、俺ぐらいじゃないだろうか。
「おい、あれ……」
「……ぷっ、やばっ、何度見ても笑えるぜ」
こちらに嘲笑の視線を向けてくる後輩冒険者達の顔を見て、びきりと額に青筋が立つ。
あいつらが笑っているのは、今の俺の格好があまりにも滑稽だからだ。
今の俺の装備を紹介しよう。
まず使っているのはパーティーで共同で管理していた倉庫から持ってきたハンマーだ。
このハンマーは前に倒したレッドオーガが持っていたもので、巨大な魔物の牙を使って作られているためとにかく丈夫だ。
ただその分見た目が無骨を通り越して、馬鹿でかい子供のおもちゃのようで、前衛の使う装備としてはあまりにもみすぼらしい。
そして使っている防具は……ビキニアーマーとミノタウロスの腰蓑だ。
このビキニアーマーは、アンフィビオスアマゾネスという陸でも海でも動ける魔物がつけていたもので、当然ながら女性用だ。
魔力を流すことで水着からうっすらと魔力の膜が生み出され、肌はほとんど露出しているにもかかわらずかなりの防御力を持っている。
ミノタウロスの腰蓑は、サイズが全然合っていないのでブカブカだ。
ビキニと腰蓑をつけた、おもちゃみたいなハンマー持ち……どうしてこうなったのか、自分でもわからない。
今の俺達に、しっかりとした上物の武器を用意するだけの金銭的な余裕はない。
「「くすくす……」」
正直こちらを見ながら笑っている奴らを今すぐにでもくびり殺してやりたいが、そういうわけにもいかない。
こちらに舐めてきた態度を取ってくる冒険者達を何度も締め上げているうちに、ギルドに目を付けられてしまったからだ。
これ以上下手なことをすれば、この街を追い出されるとまで言われている。
下手を打って冒険者資格を剥奪されるわけ以上、この嘲笑に我慢しなくちゃならないのだ。
今は我慢の時だ。
質は悪いものの装備もきちんとある。
一応なんとかなりはしたものの、失ったものはそれ以上に大きい。
「俺は……畜生、一体何でこんなことに……」
見下ろすと見える自分の肌に、ぶつぶつと小言が止まらない。
この装備をさっさと替えたいが、Cランク帯の防具ではこれが一番防御力が高いというのも質が悪い。
なまじ『勇者』のジョブで高い魔力操作能力を得てしまっているせいで、この装備の力を100%を超えて発揮できてしまうのだ。
今の魔物を相手にすれば、これでも十分戦えてしまうのも問題だ。
ビキニの上に服を着ると極端に防御が下がってしまうため、何かで覆うわけにもいかない(ちなみに腰蓑だけはなぜかパレオ扱いでいけるため、しっかりと装備している)。
Bランクに上がってしっかり稼げるようになればこんな装備ともおさらばできるんだ。
今だけの我慢だ、今だけの……。
宿に戻る。
今俺達が使っているのは『ロボリ亭』という宿だ。
装備を替える貯金を作るため『野ウサギの尻尾亭』よりも更にグレードを落とし、新人冒険者が使う宿にしている。
当然ながら一人一人で個室を使うのではなく、共同で三人で一室を使っている。
二階の部屋に戻ろうと、既にそこには調理をしているリアの姿があった。
今までは全て出来合いのものを買っていたが、節約のために今は食事はほぼ全て自炊だ。 『水魔導師』とはいえ火魔法も使えるので、調理はお手の物だった。
「あら、おかえりなさい。もうちょっとでできるから、着替えて待っててね」
「リア、俺はもうダメかもしれない」
「はぁ……愚痴なら後で聞いてあげるから、まずは着替えたら?」
「うん……」
宿の中に入れば、防御力を気にする必要はない。
布の服に着替えていると、外からヒメが帰ってきた。
「見てください、今日は患者さんからお酒をもらえましたよ!」
ヒメは減ってしまった俺達の稼ぎを補填するため、ここ最近は教会にいって患者の治療を行っている。
そのおかげでしっかりと貯蓄は溜めることができていた。
おまけにヒメは教会ではかなりの人気者らしく、こうして治療をする度に患者から色々なものをもらってくる。
リアに財布を握られて晩酌ができない俺がそこそこの頻度で酒を楽しむことができているのは、ヒメのおかげだ。
「「「いただきます」」」
皆で一つのテーブルを囲み、料理に舌鼓を打つ。
最初は下手くそだったリアの料理も、ここ最近は大分上手くなってきた。
店の味と比べればそりゃあ落ちるが、食べ慣れたせいかなんだか美味しく感じる。
今日は酒もあるし、いつもより二割増しで美味いな。
「ヒメ、リア、俺はもうダメかもしれない……」
「はいはい、そう言ってダメだったこと一回もないじゃない」
「きちんと頑張ってちゃあんといい装備買いましょうねぇ……」
最近は酔っ払うと愚痴ばかりだ。
周りの奴らから馬鹿にされまくるせいで、生きていくのが辛い。
なんで『勇者』の俺がこんなことに。
何度言っても言い足りない。
こうして酒を飲みながら愚痴をこぼしていれば気分は幾分かマシになるが、それでも俺の気分が完全に晴れることはない。
「ビキニアーマーは嫌だぁ」
「きちんとしたお服を買いましょうねぇ」
「買うぅ……zzz」
食事を終えても酒を飲みながら話をしたら、気付けば俺は眠っていた。
俺は毎晩悪夢にうなされている。
その日は、つけたビキニアーマーが呪われていて一生外せない夢を見た。
こんな絶望的な状況からでも、俺はなんとしてでも這い上がってみせる。
俺は『勇者』だ、『勇者』なんだ!
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