第29話
「ふぅ、今日も疲れたぁ……」
水路も完成し、お風呂も作り、ついでにそのまま蒸し風呂も作り。
基本的なインフラの整備が終わったので、次は従魔の皆の小屋も作った。
更に今後成長することを考えて子供達の暮らす家を男女別に分けたり追加で家を作ったり、作物以外も色々と作れないかと畑を拡張して野草の栽培なんかも初めてみたり。
案外やることは多かったけれど、とりあえずそれら全てに一段落がついた。
なのでここ最近は鈍った身体を鍛え直すため、ジルを乗りこなしながらの狩りに精を出している。
「わふっ」
「わあっ!? わかってる、わかってるって!」
大柄なジルにのしかかられながら、ぺろぺろと顔中を舐められる。
身体が大きくなっただけじゃなくて力も強くなってきたから、相手をするのだけでも全力だ。
でもこれも『テイマー』の宿命だから。
ただ若いからなんとかなってるけど、これ年取ったら厳しそうだよなぁ……とそんなことを考えながら、タンスを開く。
そこに入っている二種類のブラシを取り出すと、ジルが嬉しそうに舌を出していた。
ジル達はそこまで手入れをしなくても毛並みがよくふわふわだけど、やっぱり定期的なお手入れはかかせない。
もふもふは一日にしてならず、というやつだ。
ちなみに今、僕が作った言葉である。
「はふっ、はふっ」
早く早くという感じで、尻尾をブンブンと振るジル。
わかったよと頭を撫でてやると、なぜか尻尾の速度が更に上がった。
は、速い……ギリギリ目で追えるけど、とんでもないスピードが出てるよこれ。
僕の建てた屋敷は、従魔の皆が入ることができるように全てを少し大きめに作ってある。
一応皆用の小屋は建てているんだけど、使っている子もいるしほとんど使っていない子もいたりと使用頻度はさまざまだ。
ちなみにジルは基本的に他のシルバーファングと一緒にいる時は小屋にいる。
こっちに来る時は、こうして僕に甘えに来る場合がほとんどだ。
シルバーファングとしてはかなり大きめのジルが、でろーんとその身体を伸ばす。
まだまだゆとりはあるけど、しばらくは問題なさそうだ。
ジルはブラッシングが好きだ。
というかウールもマリーもビリーも、毛を持っている子達は皆おしなべてブラッシングが好きである。
彼らは身体がちっちゃいのでブラッシングもすぐ終わるけど、ジルの場合は身体も大きいので一苦労だ。
けど目をキラキラさせながらやってやってとせがまれちゃあ、断れない。
気合いを入れて、ブラシを握る手に力を込める。
まず最初に使うのは、猪の魔物であるグレイトボアーの毛を使ったブラシだ。
使っている毛がかなり硬めなので、まずはこれを使ってがっしがっしと全体を梳いていく。
「へっへっへっ」
気持ちよさそうに身体を地面に預けながら、時折ビクビクと跳ねる。
魂の回廊を経由して上手いこと人間風に翻訳するのなら……彼からするとこの硬いブラッシングをされるのは、ある種のマッサージを受けているようなような感覚らしい。
押すように梳いて身体全体を刺激したら、次に使うのは馬の魔物であるカイザーホースのたてがみを使ったブラシだ。
こっちはかなり柔らかめで、いわば仕上げのブラシである。
さっきしっかりと硬めのブラシでほぐしておいたおかげで、スッスッと毛を通っていく。
数分も梳いていくと、毛がふわふわに仕上がった。
「よし、できた」
「はふ……」
普段あれだけ勇ましく戦い他のシルバーファングを従えているジルだけど、流石にブラシの魔力には敵わないようで、ぐったりとした様子で地面に倒れ込んでいる。
確認のためにもふもふしてみると、手先に素晴らしい感触が帰ってきた。
やっていると楽しくなり、気付けばもふもふを堪能してしまっている自分がいた。
「がるっ!」
「わあっ、ちょっ……やったな、このっ!」
気を取り直したジルが僕の方にまたのしかかってきたので、今度は二人でごろごろと転がりながらじゃれ合う。
牙に太めの神経が通っているからか、ジルは歯に触れられるのを喜ぶ癖があった。
僕はジルと戯れ、くたくたになってしまい。
夕食を食べてお風呂に入ると、そのまま死んだように眠るのだった――。
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