第27話

「ふぅ……これでしっかり完成したね」


 生活用水として使えるように拡張したり、全てが同じところから流れていると汚水や断水の危険があるので上流と下流で別々の水路を作ったり、更には少し離れたところにある支流の川からも水を引いたり。


 色々と試行錯誤をしながらだったので時間はかかったけれど、ようやく水路の工事がしっかりと竣工することができた。

 これでマリーの力を借りずとも、好きなだけ水を使うことができるようになった。

 大量の水を使うことができるようになったらやりたいと思っていたあるものを、今日はやることにしようと思う。


「ということで――今日はお風呂に入ろう!」


「お風呂、ですか……?」


 こてんと首を傾げるウィチタ。

 どうやら獣人には風呂に入るという文化はないらしく、基本的には水浴びで済ませてしまうということだった。


 こんなに素晴らしいものを知らないなんてもったいない。

 ということで僕は早速お風呂の準備にとりかかることにした。


 どうせなら一人ずつ入浴していく五右衛門風呂ではなくて、皆で入浴できる大きめのサイズのものが作りたい。

 も、もちろんマーナルムの皆に入ってもらうためのものだよ?

 後でちゃんと、僕用の小さめのお風呂も作るつもりだ。


 大きい風呂となると下から直接火で熱するのは厳しそうなので、熱した石を入れて水を温めるやり方にすることにした。


 まず用意するのは大量の薪だ。

 石を焼くための準備を終えて戻ってみると、既にマックスが風呂を完成させていた。


「……(にゅるんっ)」


「き、気合い入ってるね」


 どうやら造形にこだわったようで、大理石のような綺麗なマーブル模様が浮かんでいる。

 触ってみると硬度もかなり高く、指先で叩いてみるとコツコツと音が鳴る。

 土というより石みたいだった。これだけ固ければ水を入れてもふやけたりすることはなさそうだ。


 次は水路で引いてきた水を中へと流し込みながら、石を熱していく。

 水がなみなみと入ってきたところで、熱した石を入れると、じゅわっと一気に蒸気が噴き出してきた。


 顔に熱気の籠もった水蒸気を浴びて、ふと辺境で入った蒸気を使った蒸し風呂のことを思い出す。

 今回は浸かるタイプのお風呂にするけど、今度はあれにも挑戦してみることにしよう。


 お風呂の用意ができたら、既に待機している皆に声をかける。


「これが、お風呂……」


「大きいですねぇ」


「なんか水遊びでもするみたいだね!」


 ウィチタとイリアは、今までに見たことのないものを見て不思議そうな顔をしている。

 エイラちゃんは早速入りたそうにしていたので、石に触らないように教えてから早速入ってもらうことにした。


「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……」


「お、おっさんみたいな声が出てるわね……」


「ゾンビみたい」


 ひどい言い様のオリヴィアとカーリャ。

 カーリャはそもそも水浴びも好きではないようなので、年長組の中で唯一かなり及び腰な様子だった。


 ちなみに当然ながら、全員身体にはしっかりとバスタオルを巻き付けてもらっている。


 ただそれでも当然ながら太ももや谷間なんかは見えてしまっているので、僕は必死に顔に視線を固定させて説明を終えた。


 そのまま風呂場を後にしようとすると……右腕をガシッと掴まれる。


「アレスさんも一緒に入りましょうよぉ」


「え゛っ」


 見ればそこには、こちらを見ながらにこにこと笑っているイリアの姿が。

 身体能力に優れた獣人に力比べで勝てるはずもなく、僕はあっという間に皆と一緒に湯船に浸かることになってしまった。


 お風呂は大好きなんだけど……正直なところ、しっかりと堪能できるだけの余裕は僕にはなかった。


 六人で入っても問題ないくらいの広さがあるはずなのに、なぜかものすごく密集しているのだ。

 吐息がかかるほど距離が近いため、ドキドキが止まらない。

 目を閉じながら哲学的なことを考えて、必死で煩悩を退散させていく。


「イリア、ちょっとアレスさんとの距離が近すぎるんしゃないか?」


「いえいえ、そこはやっぱり、アレスさんも男の子ですからぁ」


 目を閉じていると、今度は聴覚で攻撃を受ける。


 う、うぅ、こんなはずでは……。

 僕は、僕はただ皆にお風呂を楽しんでもらえれば、それだけで……。


「きゅう……」


「ア、アレスさーん!」


「アレスさん、大丈夫ですか!?」


 周りの声に応える余裕もなく、心頭滅却しすぎて長風呂をしすぎてしまった僕は上せてしまい、そのまま意識を失うのだった……。







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