第26話


 年長組の子達は良くも悪くも真っ直ぐで、わかりやすい子が多い。

 けれどそんな子達の中で一人、謎多き人物なのがカーリャだ。


 彼女は何を考えているか、よくわからない時がある。

 ミステリアスというより天然な感じの強いカーリャは、エイラちゃんに次ぐマーナルムのムードメーカーだ。


 僕はある日、そんな謎多き美女であるカーリャにこう言われた。


「釣り……行かない?」


「いいよ!」


 思い返してみると、カーリャと二人で何かをしたという記憶はない。 

 それならこれを機に、もっと彼女と仲良くなってみよう。


 そう思い立った僕は川釣りをするために、シェフに三本(一本は壊れた時用の予備だ)の釣り竿を用意してもらい、彼女と一緒に川へと向かうのだった。



 僕はジルに、そしてカーリャは彼女のパートナーであるシルバーファングに乗って川へと向かっていく。


 道中何度か戦闘はあったものの、一つの生き物のように息をぴったりと合わせているカーリャ達の前では鎧袖一触だった。


「やっぱりカーリャも強くなったよねぇ」


「どやっ」


 胸を張る彼女。

 ペットは飼い主に似るというが、彼女の相棒のシルバーファングの方もなぜかドヤ顔をしながらこちらを見上げていた。


 獣人達は元々魔物に乗る適性が高かったからか、皆シルバーファングに乗ることで明らかに戦闘能力が上がっている。


 カーリャも元々Cランクの魔物を相手取れるくらいの力はあったはずだけど、今ではCランクの魔物程度なら軽々と倒すことができるようになっている。


 ……え、僕はどうなのかって?


 ジルに乗れるようになってけど、僕自身の身体能力は大して変わってないからなっぁ。

 まあジルが配下達の分も強くなったから、その恩恵は大きいけどね。

 今はもう、僕が乗ったままでも魔物を蹴散らせるようになったし。


 と、そんなことを考えているうちに、あっという間に川に到着した。

 背負っていた釣り竿を下ろし、カーリャに差し出す。


「ありがと」


「いえいえ」


 竿は木製で、何種類かあった木材の中で一番粘り気があって折れにくいもので作ってもらっている。


 どうやら色々なものを作ってシェフもものづくりに目覚めたのか、竿のグリップの部分は魔物の革を使って滑らないようになっている。


 ちなみに釣り糸はアラクネという人間の上半身と蜘蛛の下半身をした魔物の吐き出す糸を使っており、耐久性はとても高い。

 思い切り引っ張ってもちぎれなかったから、川魚が食いちぎるのはほぼほぼ不可能だろう。


 グリップの握りを軽くたしかめたら、釣り針を川の中に入れてみる。

 それを見ていたカーリャに、なぜかジトーッとした目を向けられてしまった。


「餌」


「餌……ああそっか、餌をつけるんだね」


 釣りをするのは初めてなので、大人しくカーリャにやり方を教えてもらうことにした。

 彼女のよどみない説明を聞きながら、僕は座るのに必要な石を用意する。


 その間にカーリャはよっこらしょっとちょっとおばちゃんっぽいかけ声をあげながら、大きめの岩をひっくり返し、手頃な餌を探してくれていた。


 そしてそこにいた大きめなサイズのゴカイみたいな生き物を二つに千切り、そのうちの一つを差し出してきた。


 僕はマックスのことを思い出してなんとなく申し訳ない気持ちになってから、その半身を釣り針に引っかける。

 どうやら魚から針が見えないように上手く隠すのがポイントらしい。


「どっちが沢山獲れるか、競争しよっか」


「うん……負けない」


 あまり表情が変わらないカーリャにしては珍しく、その瞳からはメラメラとした炎が宿っていた。


 腰掛けるのにちょうどいいサイズの石を用意したら、座りながら垂れる糸を見つめる。


 釣りは待ちの時間がとても長い。

 ただぼーっとしている時間は嫌いではないので、そこまで苦痛でもなかった。


「そういえばさ」


「うん」


「どうしていきなり、釣りをやろうと思ったの?」


「やったことなかったから」


「カーリャもやったことなかったの!? さっきあんな自信満々で説明してたのに!?」


「全部受け売りの知識」


 なぜかドヤ顔をしているカーリャを見ていると、思わず笑いがこみ上げてきた。

 相変わらず独特な感性を持ってる子だなぁ……。


「引いてる」


「え……あ、ホントだ!」


 話をしているうちに、気付けば僕の竿がしなっていた。

 引き上げてみればみれば、手のひらくらいの体長のある魚が見事に食いついていた。


「これはたしか……アユだっけ?」


「うん、問題なく食べられる」


 結局この後しばらく粘っても、僕らの竿に新たな獲物がかかることはなかった。

 一匹だけ持ち帰ってもということで、皆には秘密で僕らだけでこの一匹のアユを分け合うことにする。


 火を起こし、事前に用意していた木串に刺してしっかり焦げ目がつくまで焼いてから、塩を振って食べる。


 秘密のアユの味は、びっくりするくらいに美味しかった。


「良ければまた来ようよ! それでさ……今度は皆で食べられるくらい沢山釣ろう!」


「……うん、流石私の一番弟子」


「僕カーリャの弟子になったの!?」


 こうして僕は気付けばカーリャの釣りの弟子になり。

 僕ら二人は川魚調達班として、定期的に釣りを楽しむようになったのだった。









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