第25話
地面に置かれていたのは、上に薄い蓋の乗っている木の容器だった。
上蓋を採ってみると、中には毒々しい紫色をした液体が入っている。
「シェフ、これってもしかして……カスミダケから抽出した毒?」
「……(ぷるんっ)」
身体の震え具合から察するに、どうやら毒で間違いないらしい。
……シェフって、こんなことまでできたのか。
一応作り方は知っているので、自作で色々とアイテムを作ってみようとしたんだけど……これなら全部、シェフに任せてしまった方がいいかもしれないね。
「とりあえず使ってみようか」
毒を使うと肉が食べられなくなるので、そもそも食用に向いていない狼なんかを探してみる。
「ギヒャッ!」
「ギギッ」
歩いているうちに見つけたのは、緑色をした小鬼であるゴブリンだった。
身体の構成が人間に近いので、毒性を調べるにはもってこいかもしれない。
「シッ!」
三匹居たので、それぞれに違う形で試していくことにした。
一匹目は頭から、二匹目は飲み込ませて、三匹目は毒を塗ったナイフを差し込む。
「「「ぶくぶくぶく……」」」
三匹ともものすごい勢いで毒が効いて、あっという間に絶命してしまった。
僕が聞いていたものよりはるかに毒性が強い。
これってもしかして……シェフの体内で濃縮とかもできたりするのかな?
絶対に倒せない敵が出てきた時のための奥の手として、しばらく封印しておくことにしよう。
色々と試したいことがあったので、水路作りは一旦終えて集落に戻る。
まず最初に、シェフに色々と飲み込ませてアイテム作成ができるかを試していくことにした。
結論だけ言うと、結果は見事に成功。
今までは木材の成形くらいしかさせていなかったけれど、彼のクラフト能力はしっかりとアイテム作成にも活かすことができるみたいだ。
薬草と水魔法で生み出すことができる魔法水を飲み込んで身体の中でかき混ぜれば、ポーションを作ることもできたし、解熱剤や解毒剤など、今ある手持ちの野草で作れるものは大抵できた。
「しかもこんなことまでできるとはね……」
僕が抱えているのは、シェフに作ってもらったポーションだ。
本来は淡い緑色をしているポーションは、なぜか濃くて深い緑色をしている。
このポーションの効果を試してみたところ、ごく普通のポーションの素材しか使っていないのに、更に一つ上、数倍の値段がするハイポーションと変わらぬ効き目があった。
――そう、実はカスミダケから作った毒薬からわかったように、中に入れたものを濃縮させることもできる。
そして液体は濃縮させることで毒性や薬効を高めることもできる。
シェフの力があれば、本来なら森の素材では作れないようなレアアイテムを生み出すことができるかもしれない。
すごい力だけど、使い方には気をつけないといけないな。
ただこれを忘れちゃいけないけど、一番大切なのは力の使い方。
新たに判明したこの力は、何もレアアイテムや強力な毒の作成に使えるだけじゃない。
というわけで僕は家にエイラちゃんとオリヴィアを呼び出すことにした。
ちなみに二人にした理由はエイラちゃんは甘い物に目がないし、オリヴィアは今後のことを考えたら話を通しておくべきだと思ったからだ。
「今日は果物を使ってジュースを作ったから、試飲をしてもらおうかと思ってね」
「やったー! エイラ甘いの大好き!」
「ジュースですか……なるほど」
僕は早速、シェフに作ってもらったジュースを二人の前に出していくことにした。
今回用意したのは二つ。
既に毒性がないことを確かめているクーパの実を僕が頑張って絞って作ったジュースと、シェフに果汁を濃縮して作ってもらったジュースだ。
まずは僕作のジュースから試飲していく。
「うん、優しい甘さだね」
「ほどよい酸味がいいですね。ゴクゴク飲めるし飲んだ後の後味もいいです」
「私はもうちょっと甘い方が好きだな。でもクーパの実を食べるより美味しい!」
クーパの実自体は既に二人とも食べたことがあるけど、ジュースを飲んでもらうのは始めてた。
どちらからも公表だけど、甘みが控えめだからか大人舌のオリヴィアの方が評価が高かった。
次はシェフに作ってもらった濃縮ジュースだ。
結構な量のクーパの実を使ったのに、コップ一杯分にしかならなかった。
僕もまだ飲んでないけど、これはかなり濃いんじゃないかな?
エイラちゃんはそのままコップを手に取って、ごくりと一口。
カッと目を見開いて、
「甘~~い!! 私これ大好き!!」
と驚いた顔をする。
続いて飲んだオリヴィアの方も目を点にさせながらちびちびと舐めるようにして飲み進めている。
僕も舐めてみると、なるほどたしかに強烈な甘みだ。
最初の一口はとんでもなく美味しく感じたけど、二口三口と飲むうちに甘すぎてちょっとウッと喉の奥から声にならない声が出てしまう。
どうやらオリヴィアも同じのようだが、エイラちゃんの方はあっという間に飲み干してしまっていた。
「甘いのが好きな子達は間違いなく喜ぶでしょうね」
「うん、これなら毎日ほんのちょっとずつ飲めば満足だし、普通のジュースとはまた違った使い方もできそう」
もう少し濃くすればシロップみたいな感じで使うこともできそうだし、原液として使えば皆が個人個人で自分にちょうどいい濃さにすることもできるかもしれない。
こうしてシェフの新たな力が発覚した日、僕らの集落に初めて加工したデザートである濃縮ジュースが誕生するのだった――。
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