第23話
人間というのは贅沢なもので、悩みが解決したり満足したりすると、またどこか別のところを物足りなく感じてしまう生き物だ。
目下僕が感じている不足は、やはり食生活の彩りのなさである。
「やっぱり魔物の肉以外も食べたいんだよねぇ」
「獣人の私達からするとよくわからない感覚ですが……そういうものなのでしょうか?」
狩猟で生活をしている獣人達は、肉だけ食べる生活が当たり前だった。
木の実や果物の採取なんかはしているけど、食べる量はさほど多くはなかったと聞いている。
というか獣人の皆は今までもそれで過ごしてきているから、野菜を食べる必要すらないと思っている節がある。
身体が丈夫だからそれでなんとかなるのかもしれないけど、やっぱり身体のことを考えるとしっかりと野草や野菜も食べた方がいいのは間違いない。
そしてとにかく身体が頑丈な彼らと違い、僕は普通の人間だ。
身体が資本の冒険者をしている時も、食事の栄養バランスにはきっちりと気をつけていた。
けれどここに来てからは食べ物はほぼ三食とも肉。
香草を使って味付けをしたりはしているが、身体に緑を取り込んでいない。
あの青臭さがほしい。
ただいくら数倍の速度で成長するとはいえ、農作物が収穫できるようになるまでにはまだまだ時間がかかる。
なので切実に訴えてくる身体のアドバイスに従い、僕は動き出すことにした。
「よし……皆でがっつり野草を取りに行こう!」
ここ最近精力的に魔物を狩り続けているおかげで、僕らの集落の周りからは、露骨に魔物の数が減っていた。
どうやら魔物達は、ここを僕らの縄張りだと認識し始めているらしい。
今でも一応警戒はするけれど、集落から離れすぎなければほとんど危険はない。
なので今回は集落の外に出たくてうずうずしているらしい子供達とその保護者としてイリアを連れ、ピクニックがてら野草の採取をしていくことにする。
「これがモギだよ。こっちは育ち過ぎてるから食べられないけど、若葉のこっちは料理に使えるからじゃんじゃん取っていってね」
「「「はーいっ」」」
冒険者としての活動歴が長いおかげで、僕は森の中で採取できる価値のある野草についてはある程度の知識がある。
といってもその知識は、かなり冒険者寄りだ。
金になる毒草についてはほとんど網羅する勢いで知識があるけれど、食べて美味しい野草はあまりわからない。
その分知っている野草があれば、がつっと一気に採集させてもらうことにする。
「採りすぎてなくならないように、ある程度数は残しておくんだよ」
「「「はーいっ!」」」
子供達が泥だらけになりながら、食べられる野草を抜いては袋の中に入れていく。
それを監督しながら、僕とイリアも一緒になって作業をしていた。
体勢上どうしても前屈みになりながらの作業になるので、なんというかその……非常に目に毒だ。
必死になって視線を逸らすけれど、どうしても視界の端にちらちらと豊満な胸が映ってしまい、どうしてもドキドキして採取に集中ができない。
「ふふっ」
「どうかした?」
「見たければ……いくらでも見ていいですからね?」
「な、なななっ!?」
多分だけど今、僕の顔は真っ赤になっていることだろう。
からかわれているのはわかっているので、僕は必死になって下を向いて心頭滅却しながら野草採取を続けた。
手玉に取られているのを悪くないと思っている自分もいた。
もしかすると僕って、年上に弱いタイプだったのかもしれない。
手前から聞こえてくるイリアの笑い声を聞きながらも決してそちらに視線は向けることなく、モギ草にボレ草、アクラ草と僕が知っている食用の野草を集めていく。
ほとんど人の手の入っていない森なので、野草も所狭しと群生している。
あっという間に全員分の袋がパンパンになってしまった。
途中からはポーションに使うための薬草や解熱剤を作るために必要なザビル草、それと念のために毒草もある程度採ってみたので、後で調合をしてみてもいいかもしれない。
「キノコや果物もあるみたいだけど……これを取りに来るのはまた今度にしよっか」
「わかりましたぁ」
野草に関しては知識があるけど、キノコと果物に関しては未知数なところも多いから今回はパスさせてもらった。
できれば今度時間を取って色んな種類のものを採取して、ネズミを使って毒性の有無を確認してから食べていきたいところだ。
集落に戻り、イリアさんに調理をしてもらう。
あまり苦みの強くないボレ草は生のまま、軽く茹でた肉と混ぜ合わせてカルパッチョ風に。
モギ草は刻んだものを小麦粉と混ぜてパンにしてもらった。
ぱくりと一口。
「お、おいひい……」
お金がなくてクズ野菜ばかり食べていた時は、なんでこんな苦いものを……といやいや食べていたけれど、ずっと食べなくなるとそのありがたみがわかる。
今はその青臭さと苦みが、無性に嬉しかった。
酸味の利いたドレッシングが青臭さを消してくれ、更に肉の獣臭さと野草の苦みが絶妙な調和を取ってくれている。
「おかわりっ!」
「はいはい、焦らなくてもまだまだたくさんありますからね」
おかわりをせがむとイリアは器に料理を盛ってから、なぜか僕の頭をすっと撫でた。
「……なんで撫でるの?」
「ふふっ、なんででしょうね~?」
優しげな顔をするイリアを見て首を傾げながら、僕はアクラ草のスープをゆっくりと飲み干した。
「――ありがとうございます、アレスさん」
「……え、何か言った?」
イリアが何かを小さく呟いたけれど、子供達のはしゃぐ声で良く聞き取れなかった。
「いいえ、なんでも」
そう言って笑うイリアの顔は、とっても魅力的だった。
こうして無事僕らの日々のルーティーンの中に、野草採取も入ることが決定したのだった――。
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