第21話
【side バリス】
「は? アレスは無能でしょう? 何をどう考えても、そればっかりは変わらないわ」
こくこくと、リアの言葉に同意して頷く。
俺達二人と考えていることは同じのようで、ヒメの方も小さく首を縦に振っていた。
アレスが無能じゃない?
こいつは一体、何を言ってるんだ?
「うーん……認知の歪みがすごいっすね!」
そう言うと、ジュリはへらっと笑いながら歩き出し、見晴らしのいい場所を見つけると地面に座った。
どうやら話し合いをするつもりらしい。
「まず最初に言っとくと、アレスさんは同じ『テイマー』のあたしからするとめちゃくちゃ有能っす。それこそ今までなんで名前を聞かなかったのか不思議なくらいに」
「アレスが……」
「有能……」
リアとヒメが顔を合わせる。
口を引き結んでいる二人を気にせずに、ジュリは続けた。
「話を聞くところによると、複数体の魔物と感覚共有をしながら自分も動いてたんすよね? それって曲芸も曲芸っすよ。うちの里の人間にも、そんな芸当ができる人いないっす」
聞けばジュリの暮らしていた里は、『テイマー』のジョブ持ちを多く輩出しているらしい。 どうやら彼女の言う通り、アレスが『テイマー』の中では有能だということばかりは認めるしかないらしい。
「アレスに戦闘能力はない。あいつはただの足手まといだった」
「たしかに戦う力は、他の『ジョブ』持ちとかと比べるとなかったのかもしれないっすよ? でも実際問題、アレスさんがいなくなってから『ラスティソード』はめちゃくちゃになってるじゃないっすか。最近はいい話聞かないっすよ、暴力事件とか、依頼の失敗によるランク降格とか……聞こえてくるのはろくでもないのばっかりっす」
ギリッ。
無意識のうちに、俺は音が鳴るほどにきつく歯を噛みしめていた。
「たしかにバリスさん達は強いんだと思うっす。それこそ、三人で十分やってけるくらいに。でも、だからこそ……強さ以外の全てを補ってくれてたアレスさんが、この『ラスティソード』には必要だったんじゃないっすか?」
アレスがこのパーティーに必要だった。
それはもしかしたらと誰もが脳裏に浮かべてこそいたが、決して三人とも口にしなかった一言だった。
ヒメとリアの顔が歪む。
違う、俺は彼女達にそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。
俺は、俺は……。
「う……うわああああああああああっっ!!」
その言葉を聞いて俺の中の何かが壊れた瞬間、頭の中が真っ白になった。
そこから先のことは、自分でも覚えていない。
ただ気付けば俺は街に戻っていて、泊まっていたはずの宿屋から叩き出されていた。
顔を上げればそこには既に夜空が広がっている。
今から宿を探す気にもなれなかった。
「もう……どうでもいい。何も……何もしたくない……」
やりたいことがなんだったのか。やるべきことがなんだったのか。
何一つ思い出すことができない。
「明日から、何をすればいいのか……やることが何も、思いつかない」
頭の中ではノイズが混じり、まともに考えることもできそうになかった。
俺は荷物を抱えたまま、大きな木の下で目を閉じる。
次の日の朝になると、俺の荷物は誰かに盗まれていた。
こうして俺は装備すら失い、無一文になったのだった――。
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