第12話
「我々獣人の間では、聖獣様にまつわる伝承がいくつも伝わっております」
そう言うとウィチタさんは指折り数えながら、いくつもの具体的な例を出してくれる。
干ばつした大地に雨を降らしてみせるナメクジ、噴火を堰き止めるオーガ、遠吠え一つで地震を起こす狼……どうやらかつてはそういった超常の現象を起こすことができる聖獣が、たしかに存在していたらしい。
これは前も聞いていたけれど、獣人にとって聖獣は豊穣を約束し自分達を守ってくれる守護者のような存在だった。
けれど聖獣達が獣人を助けたような逸話と比べると数は少ないが、聖獣が害を成したとされる伝承も残っている。
当然ながらそれにも理由があり……
「語り部の年寄り方から話を聞いたところによると……聖獣とは共に暮らす者を映し出す鏡なのだそうです。共にあろうとしていれば聖獣となるが、ただ利用しようと邪な考えばかりを抱いていると聖獣はそれを見抜き、禍を及ぼす存在――災獣となると」
「災獣……」
聖獣は益獣だが、扱い方を間違えれば転じて災いになる可能性を秘めている。
故に獣人達の間では聖獣に対してはきちんとした態度を取らなければならないと、しっかりと言い伝えられているらしい。
「なるほど……」
ウィチタさん達がジル達に対して頑なに敬意を持って接していた理由に、これで納得がいった。
ただその話を聞いても――僕の従魔に対する気持ちは、何一つ変わらなかった。
というか話を聞いてなおさら、ウィチタさん達にもっと気安く接してほしいという思いが強くなっている。
「えっと、ウィチタさん達に一つお願いがあるのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
「私達にできることであれば、なんでもお聞きしますよぉ」
もしかすると彼女達の常識からするとなかなか受け入れがたいことかもしれない。
けれど今後生活するにあたって、超えなくちゃいけない壁に違いない。
「僕の従魔達に――普通に接してあげてほしいんです」
たしかに彼らの見た目や持っている力は、普通とは違うかもしれない。
だがだからこそ彼らは心の底で――他の魔物達と同じように、普通に扱ってほしいと思っている。
たしかにジルの新たに判明した力――従えた配下の力を自分に還元する力は、敵に回れば凶悪だろう。
ただこれって、単に使い方の問題だと思うのだ。
シェフの力だってものづくりに使えば素晴らしいけれど、悪用しようとすれば骨の一本も残さず誰かを暗殺することだってできてしまう。
そして彼らが間違った力を使い方をすることはない。
なぜなら彼らと僕は、魂の回廊で繋がっているからだ。
「僕の従魔の皆は魔物達の群れからはじき出されたり、そもそも生まれた時から捨てられてしまったりした子達なんです」
マリーは同じファイアスパロウを見ると、どこか悲しそうな顔をする。
ジルも今ではシルバーファング相手にも堂々としていられるけど、僕と出会ったばかりの頃なんかびくびくしてまともに戦うこともできなかった。
「彼らも、生まれたくて聖獣として生まれてきたわけじゃありません。ですので心のどこかで、普通と違うことを責めていたり、嫌がっていたり……普通の魔物より知能も高いので、辛い思いをすることも多いんです」
だから普通に接してあげてほしい。
そう僕がもう一度言うと、ウィチタさん達はジッとジルのことを見つめる。
いつの間にかマリーとビリーにシェフにマックス、僕の従魔達が勢揃いしている。
彼らと視線を交わしてから、ウィチタさん達は輪になって話し始めた。
数分もしないうちに、結論は出たようだ。
「気安く……というのは最初のうちは難しいかもしれません。ですが……聖獣様として敬うのではなく、共にこの森で生きていく仲間として、尊重し合いながら生きていければと思います」
「はーい、そして私達からも一つ、アレスさんにお願いがありまーす!」
ビシッと手を上げるエイラちゃん。
何を言われるのかと戦々恐々としていると、彼女はそのままニカッと笑い……
「アレスさんってさ、私達に対してなーんか一歩引いてるっていうか……実は私達、距離感感じてるんだよねぇ。ということで……交換条件ってわけじゃないけど、私達にもっと気安く接してもらえない?」
「ほっ……わかったよ。これでいい?」
「これでいいのだ!」
何が楽しいのか腰に手を当てて笑い出すエイラちゃん。
彼女に釣られてウィチタさ……ウィチタやイリア、オリヴィアが笑い出す。
「ははははは」
相変わらず無表情のままだけど、どうやらカーリャも笑っているみたいだった。
「わふっ」
「ピイッ!」
「チュンッ!」
「……(にゅるん)」
「……(ぽよんぽよん)」
どうやら従魔の皆も明るい気持ちになってくれているらしく、いつもより激しく動き回り始める。
「わっ、皆元気!」
騒がしいことに気付いて、子供達まで寄ってくる。
天真爛漫なマレーナちゃんは、そのままジルに飛びついてもふもふし始めた。
「……ぷっ」
その様子を見て、今度は僕の方が噴き出してしまう。
僕も、従魔の皆も、ウィチタ達も……全員が笑っている。
今目の前に広がっている光景は、今まで僕達が求めても手に入ってこなかったもので……だからこそとってもとっても、貴いもののように思えた。
今日、きっと僕らは本当の意味で、一丸となってまとまることができたのだと思う。
この場所を守るためにも、頑張ろう。
改めて僕はそう、強く思うのだった――。
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