第11話
マーナルムの皆がウルフライダーとなった次の日。
毎日彼と顔を合わせていた僕は、すぐに異変に気付いた。
「……なんかジル、大きくなってない?」
「わふ?」
僕が首を傾げると、ジルも真似をして首をくいっと動かした。
その金色の毛並みは相変わらず美しいんだけど……その体躯が、明らかに大きくなっているのだ。
マーナルムの皆が乗っているシルバーファングより少し大きいくらいのはずだったんだけど、そのサイズが明らかに一回り大きくなっているのである。
試しに首回りに抱きついてみる。
以前は余裕で手を繋ぐことのできたのに、今では指先を伸ばしても触ることができなくなっている。
顔立ちも心なしか変わったような気がする。
そして心なしか、毛並みも綺麗になっている感じがした。
なんというか、全体的に……もふもふ度が増しているのだ。
「うーん、僕の勘違いなのかな……?」
「こ、これは、ジル様が大きくなっている!?」
「どうやら勘違いじゃなかったみたいです」
誰に向けてかわからない弁明をしていると、ウィチタさんの叫び声を聞いた他の女性陣もやってくる。
「なんだか前よりずいぶんとご立派になりましたねぇ」
イリアさんがあまりにも平常運転だったので、なんだか少し落ち着くことができた。
ちなみにエイラちゃんは手をわきわきとさせながら、身もだえていた。
他のシルバーファングのようにもふりたいという衝動と、聖獣様をもふれないという良心との間で葛藤しているらしい。
そんなに気にしなくていいと思うんだけどね……。
皆と一緒に、ジルのことをジイッと観察する。
見られることは嫌いではないからか、ジルはなぜか目を伏せながら胸を張ってみせた。
「今までもちょっとずつは大きくなってたのかな……?」
「毎日見ていたので違いがわからなかった、ということですか?」
「うーん、だとしたら今日になってから気付くのもおかしいような……」
放していてやっぱり一番気になるのは、なんで大きくなったのかである。
でも昨日の今日となると、考えられるのは一つしかない気がする。
「マーナルムの皆とシルバーファングが仲良くなったから……ってことなのかな?」
「そうとしか考えられない気がしますね……」
僕らの出した結論は同じだった。
頷き合いながら見つめ合っていると、ウィチタさんの顔が何故かボッと赤くなる。
「はっ、はわわ……」
「ひゅーひゅー、お熱いことでぇ!」
「あらあら、うふふ」
エイラちゃん達にはやし立てられると、かあっと顔に血液が集まるのがわかった。
多分僕の顔も、ウィチタさん同様赤くなっていることだろう。
「と……とにかく! これは多分シルバーファングと皆が仲良くなったおかげだと思うんです!」
これ以上茶化されないように大きな声を上げてから、本題に戻る。
従魔が強くなり、存在感が増す。
実はこれと似たような現象を、僕は知っている。
「僕の『テイマー』が使えるパッシブスキルの一つに、従魔強化というものがあります。これは名前そのまま自分の従魔を強くするものなんですが……その時もやっぱりジルやシェフ達の身体は大きくなりました」
シルバーファング達がマーナルムに溶け込んだこととジルが強化されたことには間違いなく因果関係があるはずだ。
自分の配下となったシルバーファング達が成長したことで、ジルにフィードバックがもたらされるようになった……というのが僕の予想だ。
昨日、ジル側に大きな変化はなかったはずだからね。
「僕は魔物と人の心のつながりは、時に魔物に大きな変化をもたらすことがあるというのを経験則として理解しています。ただそれだとジルが強くなる理由にはなっていないので、疑問が残るんですが……」
「ジル様は聖獣様ですので、そういうこともあるのではないでしょうか?」
「聖獣だと……そういうこともあるんですかね?」
思わずオウム返しのようになってしまった。
というか僕は彼女達が聖獣と呼んでいる存在が一体なんなのか、実はあまり良くわかっていない。
今までは下手につついて面倒を起こしたくなかったから黙っていたけれど、今の僕達の間にはしっかりとした関係性が築かれている。
せっかくだからこの機会に、聖獣について詳しく聞かせてもらうことにしよう。
僕は気を取り直して人差し指をピンと立てているウィチタさんの話に耳を傾けるのだった……。
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