第10話
シルバーファング達が来てくれたことで、うちの従魔の労働環境が大きく改善された。
今までは周囲の警戒のためにビリーとマリーのどちらかが空を飛び回ってもらっていたんだけれど、彼らが順繰りに警戒をしてくれればその必要がなくなったからね。
狼の嗅覚はなかなかに鋭いらしく、彼らは僕らが気付くよりも早く近付いてきた魔物を察知し、そして無事に狩ってきてくれる。
良いことずくめに思えたシルバーファングの加入にも、問題があって……。
「狼達とマーナルムの皆の関係性が、ちょっとギクシャクしてるんだよなぁ」
シルバーファング達は基本的に小屋の外を警戒する形で布陣してくれている。
そのおかげで獣人の皆とコンタクトを取ることができず、両者の関係が改善されていないのだ。
しっかりと休んでもらうためには小屋の近くにいてもらった方がいいのは間違いないんだけど……子供達の中にはシルバーファング達が吠えるとビクッと身体を震わせる子達も多い。
彼らの視点からすると、シルバーファング達は僕らを襲おうとした魔物のわけだから、怖がるのも当然だ。
けど今後も一緒に行動をすることになるなら、この不和は一刻も早く解消しておく必要がある。
――というわけで僕は、一計を案じることにした。
「「「……」」」
今僕の目の前で、シルバーファング達とマーナルムの皆が向かい合っている。
幸い食料や生活家具の生産も終わったので警戒を僕の従魔達に任せ、一度しっかりとふれあうための時間を取ることにしたのだ。
両者の距離は、およそ二十歩ほど。
シルバーファング達と子供達のちょうど真ん中のあたりに、状況を見守っているジルが立っている。
「わふっ」
ジルがちらっとこちらを見た。
これでいいのか、という視線だ。
僕が黙って頷くと、動きがあった。
「あらあら~」
誰よりも早く、イリアさんがシルバーファングの方へ近付いていったのだ。
シルバーファングの方は事前にしっかりと命じられているからか、動かない。
ふれあえるほどの距離に近付いたイリアさんは……少し身を屈めながら、元ボスシルバーファングの頭をそっと撫でる。
「いつも私達を守ってくれて、ありがとうね~」
頭から背中、そして胸のあたりまで色んなところをなでていく。
そしてそのまま抱きついて、全身で毛並みを堪能しだした。
どうやらイリアさんはかなりのもふもふ好きらしく、そのまま他のシルバーファングの方へ向かっていくとどんどんと狼達をなで回し始める。
シルバーファング達の方もまんざらではないようで、最終的にイリアさんはたくさんのシルバーファングのもふもふの中に埋もれてその姿が見えなくなってしまった。
満足げな表情をしながら笑っているイリアさんを見て、何人かがごくりと喉を鳴らすのがわかる。
けれど中でも一番動き出すのが早かったのは、マレーナちゃんだった。
「わ……わんわんっ!」
彼女は駆け出すとシルバーファング達の群れの中に突撃していき、あっという間にもふもふの波の中に消えていった。
「きゃーっ!!」
銀色のもこもこ達の中から、楽しそうな叫び声が聞こえてきたのを皮切りに、他の獣人の皆も動き出す。
「わあ……ふさふさ」
「もふもふ……きゅん」
「わふわふっ」
こうして両者の顔合わせ(でいいのかな?)は無事に終わり、マーナルムの皆とシルバーファング達はあっという間に仲良くなってしまった。
きっと必要なのは、何かのきっかけ一つだったと思う。
そしてこの懇親会は、僕が予想していなかった相乗効果まで生み出していた。
「わんわん……ゴーッ!」
「わふっ!」
一番お転婆なマレーナちゃんが、なんとシルバーファングの上に乗ってグルグルと小屋の周りを回り始めたのだ。
そしてそれに触発された獣人達も撫でていたシルバーファングに乗り、同じように辺りを駆け始めたのである。
皆運動神経が高いおかげで、大して苦労することもなく乗りこなすことができているようだった。
シルバーファングに乗って獣人の皆が駆け回っている様子は、圧巻の一語に尽きる。
こうしてマーナルムの皆は、全員がシルバーファングに乗ることができるようになった。
これによって皆はウルフライダーとなり、その機動力と戦闘能力が大きく向上したのだった――。
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