第7話
森の中を歩いていく。
前回は効率を優先してガンガン走り回ったり、血を使って魔物をおびき寄せたりしたけれど、今回は流石にそれはやらない。
皆が危険にならないよう、そしていざという時はすぐに助けに戻れるようにあまり距離を取らない場所で魔物をしっかりと倒していくことにする。
「ラージボアーが二匹いますね。どうします?」
「倒します。ガネーシャ、ラル、二人でやりなさい」
「「はいっ!」」
どうやらウィチタさんはかなりスパルタらしく、いきなり子供達を戦わせることになった。
ちなみに獣人達が使う武器は、マチェーテのような湾曲した剣だ。
いざという時には助けに入れるようハラハラしながら見守っていると、隣にいるウィチタさんが笑う。
「大丈夫ですよ、アレスさん。あれしきの魔物にやられるような柔な鍛え方はしていません」
「えいっ!」
ガネーシャ君の方は、手にしている剣でズバッと一閃。
「やあっ! とおっ!」
読書とかが似合いそうな女の子のラルちゃんの方は一撃で両断できる力はなかったらしく、前足を集中して狙って機動力を削いでからしっかりとトドメをさしていた。
二人とも強い……こんなにあっさり倒せるとなると、EどころかDランクくらいの魔物まで倒せるんじゃないだろうか。
ちなみにもう一人の前髪パッツンの女の子、カルトちゃんの方も同じくらいの戦闘力で、森の中にいたオークを軽々と倒してしまっていた。
「まさか子供達がこんなに強いとは……ウィチタさんの戦う姿を見るのが楽しみですよ」
「そんな……自分なんかまだまだです」
謙遜するウィチタさんが、獲物を持ち上げながら言う。
一緒に歩いているとわかるけれど、その身のこなしにはまったくと言っていいほどに隙がない。
試しにCランクの魔物である大泥猪と戦ってもらったけど、問題なく倒すことができていた。
多分従魔なしでやり合ったら、僕じゃ勝てないと思う。
Bランク冒険者くらいの実力はありそうだ。
マーナルムはウィチタさん直伝の身体強化を習うため、皆身体能力がかなり高いらしい。
僕におかわりをねだってきたマレーナちゃんも、ゴブリンくらいなら倒すだけの実力があるそうだ。
「すごいなぁ……」
「……すごいのはアレスさんですよ」
「え、そうかな?」
「そうですよ! やっぱり一番すごいのはその索敵能力です! ビリーさんを使って空から確認すれば、不意打ちを気にすることなく、最短距離で獲物まで近づけますから! それにジルさんの身のこなしもやはり普通のシルバーファングとは――」
何やら大興奮で力説するウィチタさん。
僕の従魔を褒めてもらって悪い気はしないのでにこにこして話を聞いているが、それが僕のことにまで及んでくると、なんだかちょっと恥ずかしくなってくる。
こ、これが褒め殺しってやつか……と内心の変化に戸惑っていると、
「し、失礼しました……」
と言って、ウィチタさんが顔を真っ赤にしてしまう。
どうやら今になって、自分でも恥ずかしくなってきたらしい。
気恥ずかしいようなもどかしいような、なんともいえない空気感の中で魔物を狩り、運べる積載量ギリギリになったので持ち帰る。
「わあっ、すごい!」
マレーナちゃん達が総出でお出迎えだ。
よっこいしょとジル達と荷物を下ろすのは、小屋の脇に作った即席の解体小屋だ。
「すごいですね……昨日まで何もなかったはずなのに……」
「あはは……マックスにお願いして、夜通しで建ててもらいました」
解体小屋は四角形の建物で、一面をくりぬいた直方体のような形をしている。
二十人分の食肉を入れる分作ったので、サイズはかなり大きめだ。
中には既に血抜きがされている魔物達の素材がつるされていた。
(ちょっと無理させすぎたみたいだから、今日はゆっくり休ませてあげないとな)
どうやらマックス、僕に頼まれたのが嬉しくて頑張りすぎてしまったらしく……かなりへろへろになっているみたいだ。
魂の回廊を使って確認したところ、ぐっすりと眠っているようだった。
これを見た時はこれから建物は全部マックスに作ってもらえばいいんじゃ……と思ったが、そう上手くはいかないみたいだ。
「どうしましょう、量的には問題ないかもですが、とりあえずもう一往復しましょうか?」
「ですね、幸い木材と香草には困りませんし、保存食にできるくらいに取ってきちゃいましょうか」
結局その後もウィチタさんともう一往復して、またマレーナちゃん達にお出迎えされることになった。
「アレスさん、私大きくなったらアレスさんのおよめさんになってあげるね!」
「ありがとね、嬉しいよ」
「いっぱい獲物を取ってくるのが男のかいしょーなんだよ、頑張ってね!」
ま、ませてるなぁ……最近の子ってみんなこうなんだろうか?
僕は苦笑しながら、マレーナちゃんの頭を撫でて、夕食の準備を手伝うのだった……。
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