第八話 アポロン〜光と闇の超絶イケメン〜
一つの神話を語りましょう。トロフォーニオスとアガメーデース兄弟は、古代ギリシャにおいて名高い建築家でした。この二人は神託を受け、とある神の神殿を作ることとなったのです。その結果、荘厳で立派な神殿が完成したといいます。
しかし、神殿が完成してから八日目の夜。2人は突然死んでしまったのです。死因は簡単。
⁇⁇「私の神殿を作ってくれたからな、死すべき身の人間にとって最高の報酬を用意したのだ。人にとって死ぬことは、最も幸福なことであろう?」
この神こそ、『
今回は、この神が持つ輝ける一面と、その真逆の一面について語っていきましょう。
①輝ける君~ピッカピカの光明神~
光明神アポロン、最高神ゼウスと愛人レトの間に生まれたイケメン神。黄金の巻毛に甘いマスクを持ちながら、細マッチョで弓の名手にして、音楽をこよなく愛する神です。このように文武両道であったため、古代ギリシャの理想の青年像とされました。
また、現代では太陽神として扱われるアポロンですが、古代ギリシャにおける彼は光明神でした。はて、光明とは一体何でしょう? 太陽だって人々を照らしますが、光明とは一体どのような違いがあるのでしょうか?
それは『人類を導く概念であるか否か』です。太陽はただ照らすだけですが、光明とは人間の文明そのものであり、社会の発展や人間の進化を担うものなのです。例えば、アポロンの三大権能である医療、芸術、予言は光明に当てはまります。医療は人々を生かし、芸術は心を豊かにし、予言は人々の行動の決め手となるからです。
そんな光明神アポロンの授ける神託とは、一体どのようなものだったのでしょうか? 実はその方法や内容は、かなり変わっています。
アポロン最大の神託所といえば、デルフォイ神殿です。生後四日のアポロンは、『ぼくも神託してみたい』と意気揚々と旅に出て、生息していた大蛇ピュトンを射殺すのでした……それって略奪なのでは?
話を戻しますが、そこには世界中の人々が集まり、今後の行く末を案じました。かといって、アポロン本人が神殿にいることはほとんどありません。彼は自由気ままな神であり、気が向けば神殿の巫女シビュラに乗り移り、人間に予言を与えるのでした。
『なんだ、アポロンって人間の味方じゃんか!』
いいえ、そうではありません。確かに彼は、人々を導く輝ける君アポロンですが、彼の言動一つで人が死に、疫病にかかり、国家存亡の危機に瀕するのですから……。
②闇のあるイケメンっていいよね
アポロンが司るのは、何も光明だけではありません。作物を食い荒らす害虫や鼠、人々を突然死、病死させる疾病の神でもあるのです。彼の持つ弓は、敵を追い払うためにあるのではなく、人間(特に男)を突然死させる弓でもありますし、疫病を流行らせることもできました。
なぜ人々を導く概念を司る神が、人を苦しめるものまで司っているのでしょう? それは元々アポロンが外来の神であり、そこでは植物神、あるいは疫病の神として祀られていたからなのです。
そもそも、アポロンという発音は古代ギリシャ語的にあり得ない発音でした。そこから彼自身は元々、東方の大地女神ラトナの随神であり、このラトナがアポロンの母レトだとする説があります。しかし、100%これが正しいわけではなく、他にも疫病神説や東方や北方の植物神説などなど、諸説がありすぎてまとめきれない状態です。
しかし、はっきりとわかっているのが、アポロンはギリシャにおいて新米の神であることです。元々持っていた恐ろしい一面だけでなく、新米の神だからこそ、人間が新しく産みだした医術や芸能などを司るようになったと考えられます。
また、彼の言葉一つで人間だけでなく、国家そのものを動かす事態に発展することもありました。その一例を紹介しましょう。
男「私たちの国は戦争に勝ちますか?」
アポロン「偉大な国が勝ち残るだろう」
国の安否を心配する男に向かって、アポロンは言いました。男は『我が国の勝利は確定だ! ひゃほーい!!』と喜んで帰りますが、その結果、男の所属するポリスは惨敗してしまったのです。
アポロン「あくまで私は『偉大な国が勝つ』と言っただけだ。あの男のポリスが勝つと断言したわけではない。もっと頭を使って解釈しろ」
そうです。アポロンの予言は謎々のようにひねってあり、そう簡単に解釈できないようになっていました。だからアポロンは、『
予言の内容についてですが、アポロンの気分でそうしたのか、それとも他の神々のように、人間にとって都合のいいように解釈・改ざんされないようにしているのか……それは神のみぞ知るところでしょう。
人間をただ単に導くだけでなく、時には冷酷に人々を苦しみにおいやる神アポロン。人間は神々に対し、自分たちを守ってくれる存在だという幻想を抱きがちです。しかし、それを壊すほどに冷酷で、気分次第で飴を与えるアポロンは、最も神らしい神と言えるのかもしれません。
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