第六話 ヘスティア~属性過多すぎるママ女神~
デメテルの話にて、神々は人間に供犠を執り行うことを求めていましたよね。人々が捧げる供犠によって、神々はその存在を維持し、供犠が多ければ多いほど強大な神格を有していました。
こうした供犠を執り行う際、最初に犠牲を捧げなければならない女神がいました。それが長女ヘスティアです。そんな彼女は、国家と家庭の守護を司る女神であり、『聖火』を擬人化した竃の女神でした。
しかし、これほど重要な立ち位置にいながら、彼女の神話はほとんどありません。その理由を、そしてヘスティア(ママ)の尊さを語っていきましょう。
①ママで妹で姉で処女神で……
タイトルにもあるように、ヘスティアという女神は属性過多な傾向があります。そもそもゼウス以外の兄弟たちは、生まれてすぐに父クロノスに飲み込まれました。長女ヘスティアは、最初に食べられた女神でした。
しかし、ゼウスから助け出され、父親の体内から吐き出された際、最後に出てきたといいます。この神話の描写から、古代ギリシャの人々はヘスティアを『姉にして妹』という特殊な立ち位置に置きました。
それだけではありません。ヘスティアは狩猟神アルテミス、知恵の女神アテナと並ぶ三大処女神でありながら、全ての孤児の母というママみ属性も兼ねているのです。あと誰よりも優しい(重要)。とりあえず抱きしめられながらヨシヨシされたい。
彼女が処女神となったのも、理由があります。弟ポセイドンと甥アポロンから、彼女は求婚された時、最高神ゼウスの下へ駆けつけると彼女は処女であることを誓ったためです。
子供好きでありながら、結婚出産の誉れを自ら捨てたヘスティアに、ゼウスは心から感心し、『あらゆる祭典において最初に犠牲を受けとる権利』『全ての孤児の保護者となる権利』を彼女に授けました。トラブルメーカーであるゼウスらしくない、ファインプレーと言えます。
では、なぜ彼女の神話は少ないのでしょうか? この理由こそ、彼女が最も女神らしい仕事をしている証なのです。
②守るために不動を貫く女神
彼女は国家や家庭の守護神であり、『竃』を司る女神です。今のようにガスコンロやライターといった、気軽に火を用いることができなかった古代において、火は貴重であり、聖なるものであり、何より暗闇を照らす安心感を与える存在でした。
そのため、家や神殿の中心には竃や聖火が置かれており、そこで人々は料理をしたり、儀式を執り行ったりと、生活の要としていました。そして、その聖火を動かすことはなく、国家や家庭が存続している証としてあり続けたのです。
竃を司り聖なる炎の擬人化たるヘスティア、彼女は己の権能を守るために、自ら動くことはありませんでしたし、誰かのもとに嫁ぐこともしないと考えられていました。その結果、彼女が活躍する神話はほぼ存在せず、重要な役割を持つ女神でありながら、弟妹たちよりも目立たない立場にいるのでした。
古代ギリシャ人は、アンフィドロミアと呼ばれる儀式を執り行いました。その儀式は、新生児を自分たちの家庭に迎え入れるためのものです。赤子の父、あるいは母親が子供を抱いて、竃の周りを駆けまわることで、家庭の守護神たるヘスティアの加護をもらうと考えられていました。
炎から離れられませんでしたが、誰よりも優しい彼女は、幸せそうな家族の顔を竃から見て、歓んでいたのかもしれません。
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