第三話 ポセイドン~大地から海へ婿入りした男神~

 今回は、海の神ポセイドンについて語っていきましょう。今日における彼は、海の神として、例えば海洋生物と共に描かれたり、海に棲む怪物として描かれたり、なんなら海に関する発明品やキャラクターに、名前が使われていることが多い印象を受けます。

 ですが、彼はただ海だけを司っているわけではありません。それがわかりやすく描かれている詩を、下に引用しました。


『神々は御身に二重の権能を与えられた。

馬馴らす者、船救う者としての権能を。

さらば、ポセイドーンよ、

青黒き髪もつ、大地の所有者なる神よ、』

(ポセイドーン讃歌 沓掛良彦訳より引用)


 おっと……これはどういうことでしょうか? なぜ水域に位置する神ポセイドンが、馬を司っているのでしょう? また、彼は詩中で海の所有者ではなく、『大地の所有者』と書かれています。

 謎の多い神ポセイドン、彼はどのような神なのか、海神以外としての彼について、語っていきましょう。



①荒ぶる自然の擬人化~逆ギレは十八番~


大地を揺るがす君エンノシガイオス大地を支える者ガイエオコスなどなど、ポセイドンに冠せられる別名は、大地関連のものが多い印象を受けます。その証拠として、彼は地震や津波を引き起こす神としても信仰されておりました。実際にギリシャは日本と同じように地震が多く発生し、それによって海へ沈むポリスがあったほどでした。

 こうした自然災害を司っていたからなのか、神話上のポセイドンは粗野で理不尽で、そして何より一度怒らせると取り返しのつかない存在として描かれています。それが如実に表れているのが、ポセイドンと姪アテナの領土戦争でしょう。


 アテナイというポリスの守護神を決めるべく、知恵の女神アテナと海神ポセイドンは、それぞれ人間に贈り物を授けます。どちらの方が人間に喜んでもらえたのか、それによって自身の領地を決めるのです。


ポセイドン「死すべき身の人間たちよ。俺はお前たちに海水の泉を授けよう」

アテナ「なら私は、オリーヴの樹を生やしましょう。食料にも商品にもなりますし」


 案の定、選ばれたのはアテナのオリーヴでした。これにぶちキレ逆ギレかましたのが、ポセイドン。なんとアテナイの平原を干上がらせてしまいます。アンガーマネジメントした方がいい。

 おまけに、ゼウスに次ぐプレイボーイで、何なら女性の扱い方もかなり乱暴です。無理やり手籠めにした女性の方が多いですし、自身の求愛に応えなかった者には、恐ろしい罰を与えています。


 荒ぶる自然の擬人化として、人間たちから恐れられていたポセイドン。しかし、だからといって、彼が人々からの神であったわけではありません。時には人間たちを庇護し、旅の道行を守る神にして、古くから存在した大地の守護神でもあったのです。



②大地から海へ婿入りしたポセイドン


 そもそも、ポセイドンという名には意味があります。勿論解釈は様々であり、正解は一つではないのですが。中でも有力とされているのが、『ポセイドン=大地の夫という意味』説です。古代ギリシャ語において


ポシス=夫

ダー=大地母神ガイア、あるいはデメテルを指す名詞

オーン=~の


と訳されており、『ポシスダーオーン=ポセイドン=大地の夫』ではないかという解釈をとる場合もあります。つまり、最初期におけるポセイドンは、大地の女神の夫であり、強力な神格を有していたのです。


 ではなぜポセイドンは大地の神としてではなく、海の神として有名になったのでしょうか? それは彼が海の女神アムピトリテと結婚し、海の世界にやってきた入り婿だからです。

 アムピトリテに一目ぼれした彼は、何度もアプローチをして(あるいは略奪して)結婚しています。ゼウスの正妻ヘラのように、アムピトリテはポセイドンの正妻であり、海の世界の女王なのです。


 ですが完全に海の神として成立したわけではなく、大地の神としての荒ぶる自然の側面と、人間を庇護する側面は残り続けました。『馬馴らす者』という馬の神でもあるポセイドンは、陸における人間の旅路を保護し、『船救う者』として航海安全の神でもあるため、海路を巡る人々を守り続けているのです。

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