第33話 最後の戦い③


 アーロンの、底知れぬ再生能力を目の当たりにしたリアンは、〝本当に彼らに勝つことができるのだろうか〟と、弱気になった。

 そんな、リアンの心を感じ取ったステラは、彼らを倒すには、もう一刻の猶予もないことを知った。


『リアン、アーロンたちの魔力は底知れないけど、魔力の絶対量が下がっていることは間違いないわ。気持ちで負けないで、今なら勝てる! イベリスの仇を討つのは今しかないのよ!』


「わ、分かりました! 次の攻撃に全てを賭けます!!」


 ステラに鼓舞されて目が覚めたリアンの頭脳は、最後の攻撃をどうするか、に集中していた。

 そんなリアンの前に、身体が再生したばかりのアーロンが立ちはだかって来たのである。その、アーロンの顔には、不死身である余裕とは別に、リアンに不覚を取ったことへの苛立ちや怒りなども見て取れた。 


(行ける!)


 リアンは、アーロンの心の揺らぎを見た事で、そう確信した。


「小僧、幾ら足掻いても、儂を殺すことなど出来はしないのだ。諦めて、わが炎に焼かれるが良い!」


 アーロンが、吐き捨てるように言って闘気を膨らますと、右の掌を突き出して火炎魔法を放つ態勢を作った。

 しかし、それより一瞬早く、リアンの星の剣の切っ先から噴き出したのは、最大級のブリザードだった。


「スーパーブリザード!!」


 その威力は通常のブリザードの比ではなく、移行魔法で返されれば、アルテミスの鎧と言えど無傷では済まない程のものだった。


「同じ手は食わぬ。メタバシス!」


 アーロンが、スーパーブリザードへの移行魔法を唱え、更に、次の攻撃に備えて呪文を唱える態勢をとった刹那、


「メタバシス!!」


「?!」


 二度目の移行魔法の呪文を唱えたのは、リアンの方だったのだ。


「知らなかったのか、俺だって魔法使いなんだぜ。移行魔法ぐらい朝飯前だ」


 アーロンの移行魔法によって返されたスーパーブリザードを、更にリアンが、同じ移行魔法で返したのだ。

 凄まじいブリザードを真面に受けて、苦悶の顔を引きつらせて凍り付いたアーロンは、鈍い音を立てて地上に落下した。


(ステラ様、これで決めます!!)


 リアンが、今がチャンスと、同時攻撃の合図をステラに送った。実際には、リアンとステラは、かなり離れたところで戦っているのだが、心が繋がっているから、互いの動きは手に取るように分かる。


『了解、此方も勝負をかけるわ!』


 ステラは、アポロンの鎧の動きを加速させると、ネーロが繰り出すサタンソードを、巧みに掻い潜りながら接近した途端、彼女に強引に組み付いたのである。


「ううっ、何のつもりだい!?」


 ネーロは、高温を発するアポロンの鎧の太い腕に抱きしめられて、逃れようと足掻くが、その腕はビクともしなかった。


『あら、ハグが嫌いなの? お楽しみはこれからよ!』


 次の瞬間、アポロンの鎧から異常なまでの炎が噴出して、組みつかれて暴れるネーロを飲み込んでいった。アポロンの鎧の最終兵器、〝ノバ〟が始まったのだ。


 その直後、星の剣を火炎モードにしたリアンが、全ての思いを込めて最大級のフレアを放った。


「アーロンよ、イベリスの仇思い知れ! スーパーフレア!!!」


 辺りが真っ白になるほどの極高温の途轍もない炎の塊が、凍って地面に転がっているアーロンを、大地ごと蒸発させていく――。

 と同時に、ネーロを抱いたままのアポロンの鎧が、太陽の如くひと際大きく光り輝いたかと思うと、その世界を揺るがす程の大爆発が起こったのである――。


 太陽の炎のスーパーフレアと、アポロンの鎧の自爆型の最終兵器〝ノバ〟によって、辺りは完全に焼き尽くされ、その衝撃波は数十キロ彼方にも及んだ。




 やがて、世界を真っ白に染めていた閃光が収まると、そこには、数キロに及ぶ二つの巨大なクレーターが重なるようにできていて、周辺の山々は跡形もなく消し飛んでいた。


(終わった……)


 リアンは、ふぅと一息ついたあと、今までの疲労が一気に襲ってくるのを感じた。



 暫くして、放心状態から我に返ったリアンは、まず、ルークたちを探した。彼らの居た辺りも、かなりの衝撃波が襲ったはずである。

 すると、包まった絨毯が遠くに浮かんでいて、ルークとシルフが、そこから顔を出しているのが見えた。


「ふう、星ごと吹っ飛ぶかと思ったわい」


「まったくだ。ここが、街でなくて良かった……」


 彼らは、シルフの魔法の絨毯に護られて無事だった。シルフの絨毯は、防御能力の高い盾にもなるのだ。

 リアンは、無事を確認しただけで彼らの傍には行かず、アポロンの鎧が自爆した辺りへと急いだ。


「ステラ様!!」


 リアンは、ステラのことが気になっていた。まさか、アポロンの鎧を自爆させるなど思いもしなかったからだ。

 彼女は女神、死ぬはずはないと必死に探していると、爆心地の上空にステラの姿があった。


「良かった、無事だったんですね!」


 瞬時に彼女の傍にやって来たリアンが、ホッとしながら喜びの声を上げた。だが、


「リアン、よくやったわね……」


 微笑むステラの姿が、徐々に薄れ始めていく。


「ステラ様、どうしたんです!」


「どうやら、お別れのようだわ」


「そんな……、神は死なないんでしょう!?」


 ステラとの別れを、受け入れられないリアンの目から涙が溢れた。


「そうね、神はこの世の法則だから、決して死ぬ事は無いわ。でも、星の剣としての私の役目は終わったようね。だから、次の使命を果たす為に往くだけよ。楽しかったわリアン、戻ったらイベリスによろしくね」


 そう言って笑顔を作ったステラは、周りの背景に透過していき、やがて――消えた。


「ステラ様―――ッ!!」


 リアンが絶叫した時、西の地平に月が沈んで、アルテミスの鎧もその姿を消した。急に空中に放り出されたリアンは、一瞬バランスを崩したが、風の魔法を使って地上に下りた。涙がとめどなく溢れて止まらなかった。


 思えば、星の剣も、アポロンの鎧も、アルテミスの鎧も、星の女神であるステラに出会わなければ手に入らなかった。ステラあっての、リアンであり、今までの戦いだった。  そのステラを失ったリアンは、身体の一部が無くなったような喪失感を感じて、その場にへたり込み、泣き崩れるしかなかった――。



「小僧、何を泣いておる。戦いはまだ終わっていないぞ!」


「何っ!? その声は!……」


 リアンが、まさかと思いながら驚愕の顔を上げると――そこには、死んだはずのアーロンとネロが、不敵な笑いを浮かべて立っていたではないか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る