第32話 最後の戦い②


 フルパワーで激闘を続けるカマエルとネーロ。そんな戦いが数分続いた頃、二人の戦いに変化が出始めた。カマエルの表情が崩れ、押され始めたのである。


「リアン様、今ならネーロの魔力は底をついているはず、後は頼みます!!」


 そう叫んだカマエルの身体が、グラッと揺れた途端、彼女の胴や腕などが、サタンソードによって無残に切り刻まれ、その骸がバラバラと地上に落ちていったのである。

 カマエルが再生するものと、期待の眼差しを向けていたリアンだったが、彼女が蘇る兆しは無かった。


「カマエル!!」


 必死の形相で、リアンが駆けつけようとしたのを、ステラが止めた。

 

『リアン、今がチャンスなのよ、すぐにアポロンの鎧を召喚して! 時間が経てばネーロの魔力は復活してしまう、カマエルの死を無駄にする気なの!!』


 カマエルの無残な死を見て、我を忘れかけたリアンだったが、ステラの魂を揺さぶるような叫びに、正気に戻った。


「くうっ! アポロンの鎧よ、我が前に姿を現したまえ!!」


 リアンが星の剣を天に突き上げ、赤い刀身に刻まれた紋章を太陽に翳して詠唱すると、彼の前面に、眩いばかりのアポロンの鎧が姿を現した。


『リアン、これが最後の戦いよ、死ぬ気で戦いなさい。そして勝つの、いいわね!』


 星の剣からステラの気配が消えると、アポロンの鎧は動き出し、ネーロに立ち向かって行った。


 それを見送ったリアンは、星の剣を握り直し、未だ攻撃して来ないアーロンに向かって、絶対零度のブリザードを放った。


「アーロン、凍り付け!!」 


 次の瞬間、


「メタバシス!(移行)」


 アーロンが、何かの呪文を唱えた。


「?!」


 すると――絶対零度のブリザードによって身体が凍りついたのは、不思議にも、リアンの方だったのだ。

 これは、アーロンの移行魔法によるもので、彼が本来受けるダメージを、リアンが受けてしまったのである。リアンの妻イベリスが殺されたのも、この魔法によるものだった。


 凍り付いて身動きができなくなってしまったリアンは、何が起きたのかが分かるまで、少し間が必要だった。


(移行魔法か?!)


 リアンは、遠隔で星の剣を操ると、自らに火炎を浴びせて氷を溶かし始めた。アルテミスの鎧は、自分の武器である絶対零度を浴びても細胞破壊する事は無いのだ。


「中々しぶといな。ならば今度は、火責めだ!」


 凄まじい闘気が膨らんで、アーロンが次に放ったのは、強力な火炎魔法だった。スネークの火炎放射を上回るその炎熱は、勢いを増しながらアルテミスの鎧を炙り、浸透して来る。

 リアンは、鎧の表面の冷気をMAXに上げて身を護ったが、何時までも耐えられるものではなかった。


(このまま、フレアや絶対零度のブリザードを放っても、全て移行魔法で返されてしまう。かといって攻撃しなければアーロンの火炎魔法に焼かれるだけだ。万事休すか――。

 ステラ様どうすれば……。そうか、ステラ様はもう星の剣の中にはいないんだ)


 いつもの癖で、ステラを頼ってしまうリアンが苦笑いした。


『呼んだ? 今、取り込み中なんだけど。貴方も魔法使いなんだから、考えなさい。アーロンを倒せる自信ができた時は言って。こちらも仕掛けるから!』


(了解です!)


 ステラと、まだ心が繋がっている事を知って喜んだリアンが、彼女たちの戦いに目をやる。

 ステラが、アポロンの鎧の掌からフレアを放てば、ネーロは、十二本のサタンソードを黒い炎と変化させて応戦していた。まさに、神と悪魔の戦いである。



「どうした。もう打つ手は無いのか?」


 動きの止まっていたリアンに、余裕の表情のアーロンがほくそ笑む。


 すると、リアンは、ブリザードを再びアーロンに放った。


「ブリザード!」


「お前には学習能力が無いのか。メタバシス!」


 アーロンの詠唱が始まると同時に、リアンは、ブリザードを被るのを覚悟で、星の剣を返して、強烈なフレアを放った。


「フレア!!」

「ん!」


 不意を突かれたアーロンは、フレア攻撃への移行魔法が間に合わず、フレアの炎をまともに受けてしまった。移行魔法は、一つの攻撃にしか効かないのだ。

 超高温に晒らされたアーロンの身体は一気に燃え上がり、灰となっていく。


 しかし、次の瞬間、アーロンの身体は急速に再生を始めたのである。その再生能力は尋常なものではなかった。


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