第29話 魔獣達との戦い①
空の上で、鷲の魔獣軍団と死闘を繰り広げたカマエルは、身体中に真っ赤な血を浴びて、修羅姫のような姿になっていた。
「カマエル、大丈夫なのか?!」
傍まで浮き上がったリアンが、心配そうにカマエルの顔を覗き込んだ。
「大丈夫です、これは返り血です、怪我ではありません。空の上の、鷲の魔獣達は全て倒しました」
血まみれで表情はよく分からないが、カマエルの声は相変わらず冷静だった。
「そうか、怪我がないならいいんだ。それにしても、三百ほどもいた鷲の魔獣を、こんな短時間で全滅させるとは恐れ入った、脱帽だよ。
しかし……、その恰好は頂けないな。ステラ様、何とかなりませんか」
『ほんとにひどい恰好ね。女の子は身だしなみが大切よ』
半透明のステラが、星の剣からスッと現れて右手を軽く振ると、カマエルの血に染まった身体は瞬時に浄められ、白く輝く天使の姿が蘇った。
「ありがとうございます、ステラ様」
地上から数十メートルの上空に浮かんでいたカマエルは、ステラに礼を言うと、眼下に蠢く赤い目の魔獣達に厳しい視線を向けた。そして、
「行けーッ!!」
カマエルの眉が吊り上がった瞬間、背後の十二本のエンゼルソードが数倍に巨大化して、ブーメランのように回転しながら魔獣達に迫っていった。
頭上を警戒していた象の魔獣達は一斉に長い鼻を上げると、凄まじい風を噴き出して、飛来する巨大な十二本の刀身を撥ね返した。
しかし、風に吹き飛ばされたかに見えた十二本のエンゼルソードは、反転して左右に散開すると、吹き荒れる風を掻い潜りながら、象軍団に斬り込んでいったのである。
象の魔獣たちは、血しぶきと悲鳴をあげながらバタバタと倒れていった。
リアンも、絶対零度のブリザードを繰り出すと、一糸乱れぬ動きをしていた象の魔獣の隊形が、一気に崩れだしたのである。
再生能力の強い魔獣たちだが、首を落とすか、強力な炎で燃やし尽くすか、絶対零度で細胞破壊すれば、再生する事は無いのだ。
これで一気に片が付くかと思われたが、頭領のマンモスの怒気を含んだ重厚な声が響き渡ると、崩れかけていた象軍団の隊形は見事に立て直されていった。
そして、彼らの半数が、死に物狂いでリアンたちへの攻撃に転じる一方で、後の百頭が対になり、互いの牙を高速振動で擦り合わせ始めたのである。
(何をしようと言うんだ?)
リアンとカマエルは、魔獣たちの反撃を躱しながらも、彼らの不思議な行動を訝しんだ。
すると、魔獣たちが擦り合わせる牙の周りに、青いプラズマ放電のような光が踊り出し、摩擦運動が更に加速されると、青い光は一気に膨張して大きな光の塊を形成していったのである。彼らは、その光エネルギーを、一斉にマンモスへと送り始めた。
五十対の象軍団から、夜空に弧を描いて送られて来る青い光の束。それを、口から吸収して貯め込んだマンモスが、巨大な鼻先をリアンたちに向けた刹那、途轍もないエネルギー波が、轟音と共に噴き出されたのだ。
「ブオーーッ!!!」
壮絶な青色のエネルギー波が大地を削り、山々を打ち砕く。不意をつかれたカマエルは、瞬時に集結した十二本の巨大なエンゼルソードに護られたが、エネルギー波の勢いに抗えず、そのまま岩山に叩きつけられた。そして、リアンも直撃を受け、吹き飛ばされてしまったのだ。
象軍団たちの戦いを、遠巻きにして様子を見ていた豹と蛇の数百の魔獣達は、ここぞとばかりに倒れた二人に殺到して、狂ったように攻撃を浴びせかけた。
牛のように大きい黒豹の魔獣たちは、瞬足と連係プレーでリアンを追いつめると、鋭い牙で噛みつき、ブルブルと振り回したあげく大地に叩きつけた。
そこへ、豹の仲間が四方から噛みつき、引っ張り合い、更に、前足の鋭い爪を振り下ろして、反撃の出来ないリアンを弄んだ。
一方、エンゼルソードに護られているカマエルを取り囲んだ象軍団たちは、両の前足を大きく振り上げ、強烈なハンマー攻撃でエンゼルソードを破壊しようと試みた。
何本もの巨大な足が、太鼓の連打のように、これでもかと踏み下ろされと、カマエルは攻撃に転じることは出来なかった。
最後に現れたのは、体長は優に二十メートルを越え、蜥蜴のように手足がついている蛇の軍団だった。黒光りする鱗、有無を言わさぬ凍るような冷たい目が二人を捉える。彼らは、止めとばかりに、口から超高温の火炎を吐き出して、辺りを火の海にしていった。
仲間を殺された怒りを孕みながら、三種類の数百の魔獣達が入り乱れて、リアンたちへの攻撃は続いた。
彼らが、様子見に攻撃の手を緩めた時には、既に、辺りは明るくなり始めていた。
「ふう!」
魔獣たちが見つめる中、瓦礫を突き破って出て来たのはリアンだった。クリスタルの鎧に護られていた彼は、多少の衝撃はあったものの致命傷を受けてはいなかった。
そして、少し離れたところからは、白いエンゼルソードが浮き上がり、十二本の刀身が花びらのように開くと、その中からカマエルが元気な姿を見せた。
リアンとカマエルが、マンモスのエネルギー波のダメージから立ち直り、魔獣たちとの闘いに向かおうとしたその時、彼らは、一斉に左右に分かれ、潮の引くように離れて行ったのである。
不審に思ったリアンが、魔獣達の居なくなった広場のその先を見ると、四本の足を踏ん張ったマンモスが、エネルギーを満タンにして、何時でも撃てる態勢でこちらを見据えていた。
「カマエル、逃げろ!!??」
リアンが叫んでカマエルを振り返ったが、そこに彼女の姿は無かった。
「??」
次の瞬間、マンモスが、最大級のエネルギー波を放とうとした刹那、彼の大きな首は胴体を離れて地面にずり落ちていて、行き場を失ったエネルギー波が暴発し、周りに居た魔獣もろ共、消し飛んでしまったのである。
マンモスがエネルギー波を撃つより早く、接近したカマエルが、エンゼルソードで彼の首を切り落としていたのだ。
四天王の一角が倒されたことで、戦意を喪失した数百の魔獣達は、リアンとカマエルによって、易々と蹴散らされていった。
「あれだけの魔獣が揃って居ながら、あの様は何だ? 魔獣など幾らでも召喚できるが、これでは何時まで経っても敵の城には辿りつけぬわ! 四天王よ、お前達が歯が立たぬというなら、儂が奴らを叩きのめすまでだが、どうじゃ!」
謎の二人の戦士に魔獣軍団が殲滅されていくのを忌々しげに見ていたアーロンだったが、さすがに四天王の一角であるマンモスが倒されると、傍に控えていた四天王たちを睨んで声を荒げた。
「「「申し訳ございません! あ奴らは、四天王の名に懸けて私共が倒して見せます!」」」
狼狽えながら頭を下げた四天王たちは、先を争う様にアーロンの前から消えていった。
アーロンの事前調査では、この国で警戒すべき戦力は、ルークという魔法使いだけであり、一騎当千の魔獣軍団の敵ではないと踏んでいた。
ところが、意気揚々と出陣した途端に二人の戦士が現れ、主力の魔獣軍団を壊滅させてしまったのだ。
その正体は、アーロンには皆目見当もつかなかった。
ただ、彼は、自分と対決するであろうリアンたちの戦いぶりを、じっくり観察する事を忘れてはいなかった。
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