第14話 星の女神ステラ
「「「おお!」」」
鞘を脱いだ、星の剣。皆が喜びの声を上げる中、リアンは、その幅広の両刃剣を高々と掲げて見せた。
片面の刀身の下部には太陽の紋章が刻まれていて、その刀身は、凄まじい炎を思わせる赤い光で覆われている。
そして、裏面には月の紋章が刻まれており、その刀身は、背筋が凍るような凄みのある青い光りを放っていた。表が赤、裏が青と輝く、見た事も無い剣である。
リアンはその剣を、慣れた手つきでピュンピュンと振り回した。
「軽い! それに、身体中に力が溢れるのを感じます。何やら剣の達人になった気分です!」
『気に入ってくれたようね』
若い女性の声は、剣の中から聞こえてくる。
『私は星の女神ステラ。使い方は追々言うけど、この剣は、握るだけで剣の達人になれるし、太陽の神アポロンと月の神アルテミスの、二つの鎧を召喚できるの。どう、凄いでしょ』
女神様にしては、口調が軽いなと思いながらも、神の力を召喚できると聞いたリアンは、これこそ自分が求めていた武器だと心を躍らせた。
『この姿のままじゃ話し辛いから、人化するわね』
その言葉が終わらぬ内に、星の剣は、眩いばかりの光を放ったかと思うと、可憐な乙女へと変身した。
銀色の長い髪、整った顔立ちに濡れたブルーの瞳、赤と青の光の布を交互に重ねたようなミニのドレスで白い肌を包んでいた。
「何と艶やかな!」
(何て綺麗な人なんだ)
おじさん達からは感嘆の声が上がり、リアンは息をのんだ。
「皆さま、ごきげんよう」
彼女の心地良い声が部屋に響く。微笑みかける愛らしい女神に、暫し見惚れていたリアンが、慌てて跪いた。
「女神様、私を選んで頂き、ありがとうございます!」
「リアン、苦しむ人々を救う為に力を貸すのだから、お礼など無用よ。それから、私のことはステラと呼んでくれると嬉しいわ」
「はい、私もリアンと呼び捨てて頂けたら嬉しいです」
初めて女神を前にして緊張気味のリアンは、思い出したように仲間を紹介し始めた。
「彼は、この屋の主で魔法具師のローマン様。その隣は、風の妖精シルフ様。そして、私の魔法の師匠であるルーク様です」
「よろしくね。あら、ルーク様、何か呪いをかけられているわね」
ゆっくりと彼らの前を歩きながら、一人一人に笑顔を向けていたステラが、ルークの前で足を止めた。
「十五年前にアーロンにかけられた、魔力を封じる呪いです」
「魔力はかなりのものを持っているのにね。どれどれ、ふんふん」
ルークの額に右手を翳して、何かを探っていたステラの目が光った。
「見つけた! 取り出しますよ!」
「……」
ルークが、目を閉じて身を強張らせる。
次の瞬間、ステラの右手が真っ白に光り輝いたかと思うと、ルークの額にずぶりと減り込んでいった。
「ううっ!」
痛みと言うより、その嫌悪感に顔を顰めるルーク。リアンたちはその光景を、息をのんで見ていた。
「ルーク様、もう少しの辛抱ですよ、それ!」
一瞬の後、ステラの手は、得体の知れぬ黒いものを掴みだしていた。暴れる黒いものを彼女が瞬時に炎で焼き捨てると、ルークはガックリと膝を突いた。
(ふー。荒療治だが、流石は女神、これほどの呪いを簡単に解いてしまうとは……)
ルークは一息つくと、まだ違和感の残る額に浮かんだ汗を、拳で拭った。
「気分はどう?」
「憑き物が落ちたようにすっきりしました。力が戻って来るのが分かります。ありがとうございますステラ様」
ルークが跪いて頭を下げると、ステラは満足そうに微笑んだ。
「さてと、ルーク様とリアンの戦闘力はこれで充分ね。シルフは、妖精だから風を使って戦えるし……、他に問題はない?」
「ステラ様、アーロンは不死身なのです。私達の力で本当にアーロンを倒せるのでしょうか?」
まだ、実戦で星の剣の威力を体感していないリアンが、不安を漏らした。
「ルーク様の思念に触れて、大体の状況は理解したけど、アーロンの力の源であるサタンハートという魔石を壊さない限り、彼を倒す事はできないのよね。そうでしょローマン様」
「その通りです。今のままでは、ステラ様の神力をもってしても壊せないかと……」
ローマンが恭しく答えた。
「そんなに凄いんだ……」
(そんな凄いのが天上界に攻めて来たら、大変な事になるわね)
美しい顔を顰めるステラに、ローマンは更に続けた。
「今のアーロンは魔王のようなものです。神と対等に戦える力を持っていると言っても過言ではないでしょう。ただ、エンゼルハートの力を借りれば、サタンハートを壊せるかもしれませぬ」
「ああ、ノアという魔法具師が造った魔法石ね。でも、彼は生きているかも、何処に居るかも分からないんでしょう」
「そうです。しかし、これは私の勘なのですが、ノアは生きていると思うのです」
感とはいいながら、ローマンの表情は確信ありげだ。
「そうなると、風の仲間たちを総動員して探すしかなさそうじゃな」
シルフも、既に、やる気満々である。
「シルフ、その時はお願いするわ。じゃあっと、……最後に、リアンの中の力の正体を探ってみるわね」
「そんな事もできるんですか?」
それは、リアンが一番知りたかったことでもあった。彼は、期待の眼差しを彼女に向けた。
「私は女神よ、訳ないわ」
ステラは得意げに言って、ルークにしたのと同じように、リアンの額に白い手を翳し、目を閉じた。
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