第13話 魔法具師ローマン③
「ふー、やっと出られたわい。お若いの、よくぞ助けてくれた。お礼の言葉も無い、この通りじゃ」
引っ張られた腕を気にしながら、ローマンは深々と頭を下げた。
「それにしても、アーロンの呪いを力づくで破るとは凄い魔力じゃな。何か強力な魔法具でも持っておるのか?」
超一流の魔法具師であるローマンも、リアンの力が気になるようだ。
「皆さんそう言いますが、何も持っていないのです。申し遅れましたが私はリアン、こちらは、師匠のルーク様と風の妖精シルフ様です」
「ルーク殿か、噂には聞いたことがある。ルピナス国最強の魔法使いじゃとな」
「恐れ入ります。今は、アーロンに魔力を封じられているので、大した力はありません」
「それで……、あ奴はどうしておる?」
穏やかな中にも怒りを含んだ目で、ローマンが訊いた。
「ルピナス国の王となって、民を苦しめています。私達は、彼を倒す方法を訊くために、貴方に会いに来たのです」
「やはりそうなっておったか……。これはいかん、お茶が冷めてしもうたようじゃ。新しいのを入れるゆえ、飲みながら話そう」
顔を曇らせたローマンは、立ち話もなんだからと、三人をテーブルの椅子に座らせた。
「何か食うものは無いのか?」
暫く食べ物にありついていないシルフが、期待の眼差しを向けた。
「妖精殿はお腹がすいているようじゃな。どれ」
ローマンは立ち上がると、料理などを載せる大きな銀のトレイを持って来た。
「お茶を四つ頼む」
ローマンが命じると、暖かい紅茶の入った四つのティーカップが、トレイの上に瞬時に現れた。彼は得意顔で、そのカップを皆の前に置いていく。
「これは便利じゃな。食べ物も出せるのか?」
シルフが目を輝かせる。
「何なりと命じ下され」
「よし! 鶏肉、パン、スープ、後は適当に見繕って大盛で!」
すると、トレイの上に、溢れるほどのご馳走がドンと現れ、美味しそうな匂いが立ち上がった。シルフは、我慢できないようにご馳走に手を出し、ぱくつき始める。
「では、本題に入るとしよう」
ルークとリアンは、紅茶をすすりながらローマンの話に集中した。
「アーロンに盗まれたのは、サタンハートと言う魔法石じゃ。儂が創った最高傑作とも言えよう。あれは、人や獣の悪意を、この星全体から吸収して魔力を貯めていく。貯められた強大な魔力は、いかようにも使える優れモノじゃ。人の寿命を延ばしたり、不死身となったりな。
現に儂は百五十歳にもなるが、サタンハートのお陰でこうして生き長らえておる。ただ、サタンハートが無くなった今は、普通の老人として老いているがな。
アーロンの不死身もその為だ。サタンハートさえ壊せば、奴は普通の魔法使いに戻るはずじゃ」
ローマンの話は、ルークたちが探し求めた答えそのものだった。ルークとリアンの顔に、見る見る赤みが差してきた。
「そのサタンハートは、簡単に壊せるのですか?」
ルークが、ここが肝心と身を乗り出した。だが、
「……恐らく、強大な魔力に護られて壊せまい」
沈痛な面持ちで、ローマンが否と告げる。
「では、アーロンを倒す方法は無いんですか!」
落胆の色を浮かべたリアンが、この世界にもう希望はないのかと、念を押した。
「うむ。あるとすれば、光魔法具師ノアの創った魔法石、エンゼルハートくらいじゃろう。実は、儂はノアの本で読んで、それをヒントに闇魔法でサタンハートを創ったのだ。光魔法で錬成したエンゼルハートの方が、力は上のはずじゃ。あれは、人の善意を力に変えるそうじゃがな。
ただ、問題はじゃ、ノアは生きていれば数百歳。エンゼルハートに護られて、今も何処かで生きていると思うのじゃが、その生死も、居場所も分からんのだ」
「……そのノアを探すしかないと?」
ルークが青ざめた顔で言った。
「そう言うことになるな。元はと言えば、サタンハートなどと言う化け物を生み出した儂の責任じゃ……」
ローマンは顔を伏せ、大きな溜息をついた。
「これでまた振出しに戻ったな」
ルークとリアンが顔を見合わせ、肩を落とした。
「エンゼルハートの存在が分かっただけでも、来た甲斐はあったというもんじゃ。人探しなら儂に任せろ!」
腹いっぱいに食べたシルフは、一人元気だ。
「そうですよね。アーロンの力の正体も分かったんですから、かなりの前進です」
前向きに言うリアンに、ルークも頷いた。
「ローマン殿、これからは、アーロンと彼の軍隊との闘いが待っています。リアンに何か強力な武器を頂けませんか?」
ルークの頼みに、ローマンは暫し思案していたが、
「……あれを試してみるか」
と、部屋を出て行き、暫くして一振りの剣を下げて戻って来た。
「この剣は星の剣と言ってな、星の女神ステラが宿っているという聖剣じゃ。ただ、今迄この剣を抜いた者はおらん。ステラが認めた者だけが、この剣を鞘から抜くことができると言われておる。
この剣に、どのような力があるのかは儂にも分からんのだが、リアン殿には不思議な力が備わっているようじゃから、試す価値はあると思う」
ローマンは、そう言って星の剣をリアンに渡した。
それは、ズシリと重い幅広のロングソードで、鞘や柄頭に宝石を散りばめた豪華な造りなのだが、かなり古びていた。
ローマンが、「さあ、抜いて見なされ」と、リアンを促した。
筋肉質で、腕力には自信があったリアンは、刀の柄を握り、一気に引き抜こうと力を込めた。だが、星の剣は、錆び付いているかのようにピクリとも動かない。リアンは再度試みたが、結果は同じだった。
「くっ、無理です、抜けません!」
「だめか……」
ルークとローマンも肩を落とした。
「念のため、イベリスに聞いてみてはどうなのじゃ?」
そう言ったのはシルフである。リアンは、「そうだった」と、剣を握ったまま心の中のイベリスに語り掛けた。
(イベリス、この剣を抜く方法を知っているなら、教えてくれ!)
打てば響くように、イベリスの声が応える。
『リアン、相手は星の女神様なのよ、礼儀というものがあるわ。自分の思いや、何故、星の剣が必要なのかを、心から訴えてみてはどうかな』
(そうか、これは単なる剣じゃない、心を持っている女神様なんだ)
納得したリアンは、今迄のいきさつを星の剣に向かって話した後、
「人々を苦しみ続けるアーロンを倒すためにも、最強の武器が欲しいのです。私に貴女の力を貸して下さい。お願いします!」
と、祈るように訴えた。だが、剣に変化は起きない――。
諦めかけたその時だった。
『……分かりました。リアン、貴方を私の同志と認めます』
何処からともなく若い女性の声がしたかと思うと、星の剣は自ら鞘を脱ぎ捨て、その姿を現した。
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